月はとうにのぼりきり、城の使用人達も寝静まった頃。
エドガーはうんざりするほどの書類の山を片付け、自室に戻って来た。
窓際に佇む恋人の姿を目にすると、思わず口元が緩んでしまう。
「待っていたのか?」なんて聞いたところで、はぐらかされるにきまっている。
体は睡眠を欲しているが、心は恋人の体温を求めている。





触れてくる指や唇が、いつもより熱いのに気付いた。眠いのだろうか。無理もない…。
ためらいがちに伸ばした自分の指先が、異常なまでの熱さを感じ取った。これは…。

唇をやんわりと避け、碧い瞳を覗き込む。
潤んだ瞳、浅い呼吸、高い体温。
欲情してるだけじゃない。




「…今日はもう休め」
「おまえがここに居るのに?それはないだろう」
「…気付いていないわけじゃないだろう。熱がある」
「おまえがそばに居るから、熱ぐらいあがるさ」
「……」
だめだ、完全に飛んでいる。
長い口づけに応えたあと、エドガーの首筋に手刀を下ろすと、シャドウは彼をベッドへと運び一晩中水タオルを変えた。




夜明け前エドガーが目を醒ますと、傍らには椅子に座ったまま目を閉じるシャドウがいた。
エドガーが起きた気配にシャドウが声をかける。
「起きたのか。…まだ熱い。もう少し眠れ」
「ああ。…手を貸してくれないか」
首を傾げながら左手を差し出すと、エドガーの右手が力無く掴み、額へと導く。
「冷たい手だな」
「……」
「眠るまで、こうしていてくれないか?」
「…今日だけだ」
唇の端だけで笑うシャドウを認めると、再び甘い眠りへと墜ちるエドガーだった。




エドガーの呼吸が落ち着いたのを確かめると、シャドウはそっと左手を離し、自分の掌で冷えた若き王の額にそっとくちづけ、水タオルをのせて部屋を出た。
新しい氷水を用意するために。



扉が閉まった後、エドガーが自分の額に触れたことを、シャドウは知らない。






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