悪夢を、見る。


『―――――』
捨てたはずの名を呼ばれた気がした。
その名を知る筈もない者に。
陽の光の髪、オアシスを湛えたリボン、新緑の瞳の彼。

振り向きざまにナイフを突き立てる。
彼だと、わかっていた筈なのに。

「痛いじゃないか」
胸に根元まで飲み込まれたナイフと俺を交互に見つめ、哀しい笑顔を向ける。

「オレを忘れないでくれ」その笑顔と流れ出る血と掴まれた手の熱さに、ナイフから手が離せない。

あぁ、このままでは。

「エドガー…」



彼の名を呼ぶ自分の声で目覚める。
床に就いたときにはいなかったはずの彼が、そこにはいた。
寝台脇に座ったまま眠り、俺の胸と枕元にその腕を伸ばして。
悪夢にうなされる俺の側に、ずっと付いていてくれたのだろうか。

「シャド…レを…ないで…れ…」

同じ夢を、見ているのか?


胸に置かれた手に触れて、再び目を閉じた。

この手の熱さは、夢も現も変わらない。
そしてこの想いも。
それなのに。

過去は、どこまでも付いて回る。
忘れたくないことばかり忘れ、忘れてしまいたいことばかりが、俺を苛む。
それでも。

この暗殺者としての誇りにかけて。

決してお前を失くしたりしない。
忘れたりしない。
お前だけは、決して、手に掛けたりしない。



ずっと欲しかった、俺だけの光。
お前を失わないためなら、何度悪夢を見ても構わない。

だから。

『エドガー、俺を忘れないでくれ』

お前が忘れないでいてくれるなら、お前に殺されても、構わない。






▲NOVEL TOP