ここで、終わる。

もう動かない体を瓦礫に横たえる。

インターセプターを逃がし終えたら、ほかに何もすることがなかった。



相棒を、見捨てた。
あの時自分も死んでいれば、あるいは彼の願いを叶えていれば、夜ごとの夢に苛まれることもなかっただろう。
「呪ってやる!」 背中にかけられた叫び。
許されたいと思わなかったわけではない。
でも許されるとは思わなかった。
自ら命を絶ってこの罰から逃れるわけにはいかなかった。
相棒を見捨てて、ただ一人逃げたのだから。
生きるために見捨てたのだから。
彼が受けたであろう苦痛を、味わわなくてはならない。
死ぬまで続くこの苦しみに耐えることが、別れの間際にかけられた呪いなのだと思っていた。



魔大陸からの脱出。
さっさと逃げ出せばいいものを、仲間は俺が戻ると信じて待っていた。
どんなときでも、 『 希望 』 を手放さない奴らだった。

さすがに今回は諦めてくれるだろう。
そのために、インターセプターを逃がしたようなものだ。
それに、あいつはリルムになついていたしな。
きっと無事に、脱出している。



出口は完全に塞がれた。ここが完全に埋まるのも時間の問題だろう。
失われていく体液と意識の中で思い出すのは、相棒のことだった。
これこそが相棒の呪いだったのだと唐突に理解する。
死の間際にあってなお、思い浮かべるのは相棒の姿と声。
苦しませるのは手段に過ぎない。
折に触れて思い出させることが、いつまでも忘れないでいるということこそが、彼のかけた呪いだったのだと。

そんなことをしなくても、忘れたりはしなかったのに。

ビリー、温かく迎えてくれ・・・・・・。

そう、口に出す。
もう痛みは感じない。



まぶしさを感じて目が覚めた。
ずいぶん静かだった。
目に映るものが天井だということに気づいた。
体を動かすと鋭い痛みが走って、この場所が死後の世界や夢ではないことが知れた。

死ねなかった。
ビリー、俺はまだ生きていなければならないのか?
そのうちまた意識が遠のいて、悪夢におびえながら眠った。



悪夢は、見なかった。



もう一週間も眠っていたんだよ、気がついてよかった、体がよくなるまでいつまでいてもかまわないんだよ、何か食べるかい、今何か作らせるからもう少し眠っていていいんだよ・・・・・・。

目の前にいる知らない男の声が、どこか遠くで聞こえるような感じがした。



結局動けるようになるまでさらに一週間かかった。

眠っていたのは宿屋の一室で、以前聞いた知らない男の声はそこの主人のものだった。
主人の話では、俺は瓦礫の塔跡に倒れていたということだった。
ここに運び込んだのはおそらく通りかかった商隊の誰かではないかと、名前も言っていかなかった、とも。
深く追求する気はなかった。



あそこから自力で出られたとは思わない。出られるはずもなかった。
まして人の手でも探し出すのは困難を極めたはずだ。
だいたい、あそこを調べようとする物好きがいるとは思えなかった。
いるとすれば・・・・・・。まさか、な。
仲間の誰かなら、顔くらい見せるはずだ。
主人の言うとおり、通りすがりの親切な誰かなのだろう。



身に着けていた黒装束は傷みの酷さから廃棄されていた。
ただ、握り締めていたという指輪の破片は、サイドテーブルの上に置かれていた。

形見の指輪。
うっすらとよみがえる、彼女との思い出。
あの家に残されていた指輪の一つ。
彼らと出会ってから、何度もこの指輪に助けられた。
それでも傷ひとつつかなかったのに。
身代わりに砕けたと、思うのは生き延びた者の勝手なのだろうか。



ビリー、俺はまだ生きていることにする。
呪うなら、お前が命を奪いに来ればいい。



そう、夢を見る必要はない。
そんなものがなくても、忘れたりしない。忘れられるわけがない。
「シャドウ」 なのだ。
今までも、たぶんこれからも。
だから。

お前の夢は、もう見ない。






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