カーテンを閉め切っていても、満月の放つ青白い光が窓辺をうっすらと染めていた。
のどの渇きに目を覚ましたシャドウは、まだ気だるさの残る体を起こしサイドテーブルに用意されたグラスをつかむ。
いつの間に自室に来たのか、そして、いつ寝巻きに着替えたのかまったく覚えていない。
だが、エドガーとの交歓の余韻がまだ自身を満たしている、それだけで何も問題はなかった。


夜をともにしても、同じベッドで眠るのは稀なことだった。
幸福な疲労で一時的に意識を手放しても、そのうちどちらかが先に目覚めてしまう。
互いの自室以外の場所で睦みあった後なら眠る恋人を残して自室へ戻り、どちらかの部屋でなら、そこが自室でなければ去る。
決して決まっていることではないが、なんとなくそんな風になってしまった。
しかし都合がいいのも事実だった。
どうしても他人の気配に目覚めてしまう。それがどんなに愛する者でも。
戦いの場に身を置く者の性質なのだとお互いが納得している。特にエドガーは普段とても忙しい。
眠れるときに眠っておきたいし、シャドウも休んでほしいと思っている。
もちろん朝まで一緒に居ることも無くはない。そういう時は、まあ、そういう時だ。


口元からあふれて首筋を伝っていった水滴がシャツをぬらすのもかまわず、グラスの水を呷る。
一杯では物足りず、二杯目を注いでふと、水差しの氷がまだ十分に融け残っているのに気づいた。
わざわざ自分を部屋まで送り着替えさせ氷水まで用意するとはずいぶんと余裕があるものだと、感心する。
……いつもなら、自分が先に目覚めエドガーの部屋を跡にするのに。
それほどまでに自分は完全に意識を失っていたのかと、なんとなく悔しく恥ずかしい気もする。
しかし今日は、今夜だけは、たとえ先に目覚めても、彼の部屋を後にする気など無かったのだ。


普段以上に意識して気配を殺し、エドガーの寝室の扉を開く。
重い扉ではあるが音も無く滑らかに開いた隙間に身を滑らせる。
さすがに王の寝所ともなれば、扉を開けてすぐにベッドというわけには行かない。
まず扉の前には衛士がいて中に入ると小間使い、その奥が寝室なのだが、エドガーは寝所周りから完全に人を払った。
人手が無いこと、他人の気配で熟睡できないこと、その辺の護衛よりも自身が強いこと……。
本音と建前をうまく使い分けた適当な理由をつけてはいるが、実のところ、シャドウがいつ来てもいいようにだ。
なんなら、エドガーの不在時にシャドウがそこで寝ていてもいいのだ。
だから、今夜、シャドウはまだ戻らないエドガーを彼のベッドで待っていた。


薄青い月光にほのかに照らされたベッドで眠るエドガーの横顔。
長い睫毛と頭髪があたかも自ら光を放っているかのようだった。
かすかな寝息で、深い眠りに落ちているのが知れた。
余人ならばこの距離にさえ近づけない、そう、自分だけがここまで無防備な彼の姿を見ることができるのだという優越感にも似たなんともいえない温かな感情が湧き上がる。
清潔な寝具に身を包んだエドガーを見るといつも「戦士の休息」という表現が浮かぶ。
普段あれだけの書類を片付け、訓練に顔を出し、他国の使者に会い、時には汚れ仕事にも手を染める。
それでいて恋人の相手はいつも手を抜かない。良くも悪くも疲れないはずが無い。


気配を消したままそろりと近づくと、何の前触れも無く、エドガーの目が開いて、シャドウの姿を映す。
気づかれない自信も狸寝入りではない確信もあったのに目が合ってしまったので、シャドウは内心の動揺を隠し切れなかった。
どうにもエドガー相手だと調子が狂う。だが、悪くない。
そのまま歩を進めエドガーの頬にかかる髪の毛を掻き揚げてやり、口付けを落とす。
「部屋には、帰さないでくれ」
伸ばされた両腕がシャドウをベッドへ誘う。
その力強さと熱さが、返事だった。






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