「なんだよ、まぁだ仕事してんのか、王様」

ノックの後に返事を待たず部屋に入ってきた男は見慣れない大きな袋を持っていた。
本来であれば来客の際は予定に組み込まれているものなのだが、考えてみればこの男が来訪の予告をしてきたことなどなかった。
「よく来たな、セッツァー。もう終わる」
いつだってセッツァーはタイミングがいい。昼でも夜でも仕事がひと段落するときに来る。
「そいつは良かった。いいものを持ってきたんだ」
彼はいつも何かしらの手土産を忘れない。
大体は酒であることが多いが、ちょうど欲しかったアイテムであるとか珍しい鉱物や金属であったりした。

「今日のは何だ?」
「そいつは後のお楽しみってやつさ。さっさと終わらせて、シャドウ呼んで出かけるぞ」
「わかった」

セッツァーが来た時には大体いつもの部屋で飲むことが多いが、今日は連れ出されるらしい。
エドガーは鈴をならして使いを呼び、シャドウを連れてきてくれるように頼んだ。

「必要なものは用意したから、寒くない格好して来てくれ」
盛夏は過ぎて昼はまだ暑いが、日が沈めばだいぶ肌寒くなってきた。
とはいえどこかの店に行くのであればそう厚着をしなくてもいいのではと思っていたが、
「今日は満月だし天気もいい。外で飲もう。先に降りてるから、シャドウと来いよ」
純粋に屋外で楽しもうということらしい。
ほどなくしてシャドウが部屋に来た。

「セッツァーとすれ違ったが、もう帰ったのか?」
「いや。これから3人で出かけたいらしい」
「そうか。あいつはいつもいい頃合いを見計らってやってくるな。仕事は終わったんだろう?」
「ああ、今日の分は終わりだ。機を見るに敏でなければギャンブラーなど勤まらんのだろう」
「なるほどな」

お互い上着を一枚多く持ち、セッツァーが待つ城外へと急いだ。

チョコボに揺られて着いたのは、城から一番近いオアシスだ。近くにセッツァーの艇が見える。
簡素ではあるが雨風を防ぐ程度には役に立つ小さな小屋と、木陰にベンチが置いてある。
夏の隠れ家だ。

「じゃ、火の用意は俺がする。エドガーは水を汲んで、シャドウはあいつら切ってくれ」
あいつら、と指された先には肉や野菜が積んである。
「バーベキューね、いい趣向だな」
「切れる刃物はあるんだろうな?」
「抜かりはねえよ」

抜かりはない、その言葉は真実だった。
火の用意にもたつくこともなければ、何かが足りないということもなかった。
燃料や食料はもちろん飲料も(ほとんどは酒類だったが)豊富に用意してあり、どう考えても昨日今日準備したものとは考えられないほどだった。
散々飲み食いし、ほど良く酔ってきたころ。

「さて。エドガー、俺を撃て!」
「は?」
「いいから撃て。撃つまねでいいから!」

セッツァーにしては要領を得ない言葉に、普段ならもっと食い下がるはずのエドガーも、いつもと変わったシチュエーションに気分良く酔ったらしく右手を銃の形にして構え、撃つ。

「ばーん」

5歳の子供でももう少しそれらしくやるだろうというシャドウの心のうちのツッコミは届かなかった。
そう、珍しくシャドウも酔っていた。
打たれたセッツァーは小さなうめき声とともにうずくまりはしたが、ゆっくりと顔を上げ、にやりと笑う。

「へへーん、プロテスかかってるから効かねーよー」
「……」

何をさせられたのかいまいち理解できていないエドガーと、自分は今何を見せられているのだろうかと一瞬にして酔いがさめたシャドウ。
魔法はもうない。
自分で発したプロテスの言葉に笑いをこらえきれず、とうとう噴き出しては椅子から転げ落ちるセッツァー。
他の者が見たら、ある意味地獄絵図だというだろう。
しかし、3人とも、十分に酔っていた。
セッツァーの笑い声につられて、たいして面白い状況ではないのに何故か笑いがこみあげてきて、2人で大笑いした。

「ならば、回転のこぎりだな!」
「勘弁してくれ!」

懐からホッケーマスクを出す真似をするエドガーも、泣いて謝る真似をするセッツァーもどちらも笑っている。
その二人を頬杖をつきながら見ていたシャドウも、声は出さずとも両の口角を上げた笑みを浮かべたのだった。
こんなくだらない遊びで笑える時代が来たと嬉しく思い、そして、いまだ色褪せない過去を思い出し、少し残ったグラスの中身を飲み干した。

「はあ、笑った笑った」
目じりの涙をぬぐいながら、セッツァーが何やらごそごそしている。
「今日のシメはこれだ!」
「花火か!」

ただし、以前エドガーとシャドウが楽しんだ手持ちの花火ではない。
地面に設置して吹き上がったり打ち上ったりするものがメインだ。
それを説明する前にエドガーが手に持ったまま着火しようとしていて、面白いからそのままやらせようとするセッツァーを横目に、シャドウは慌ててその辺に落ちていた小石を手裏剣の要領で投げ、花火を落とさせた。
そこまではよかった。しかし、時すでに遅し。
「……やばいんじゃないか?」とエドガー。
すでに火がついていた花火は、じわじわと火花を散らせ始めていた。
今近づいて設置や消火をするのは危険が伴う。
何しろ3人ともこの花火がこれからどのように火花を展開させるか知らないのだ。

「エドガー、離れろ!」

シャドウの声と同時にエドガーは飛びはなれ、火花が勢いよく噴き出し始めた。
3メートル、いや5メートルはあろうかという距離まで噴き出した火花は、その勢いで回転しだした。

「おお……」

確かに感嘆の声を出させるほどには美しかった。
しかし、平坦な地面でないせいで、半分回っては戻ったり逆回転をし始めたりで、まるで劫火に焼かれる大蛇のようだった。
その火花から逃れ得た3人だったがついに恐れていたことが起こった。
ずいぶん離れたところに置いていたはずの未着火の花火に引火したのだ。
それまで、(まあ、奇麗だし面白いしこれはこれで)と火花から逃げながらも楽しんでいた3人だったがこれには若干血の気が引いた。
しかしだからと言って、何かできたわけではない。
爆発的に燃え上がり火の粉を上げ噴き出したり、けたたましい音を立てて何かがあらぬ方向へ飛んで行ったりして、何とか自然に鎮火するのをただ黙って見ていただけだった。
いい年をした大人たちが。
酔っ払いが。
3人で。

「ふ」

息を吐くような笑い声はシャドウだった。
「ふっ、ははっ、ははははは」
彼が声を出して笑うのは、本当に珍しいのだ。
いつもは唇の端をちょっと上げる具合なものなのに。
それにつられて、エドガーもセッツァーも大声で笑い始めた。

「ずいぶんイレギュラーなキャンプファイヤーだったな」
「一瞬で終わったけどな」
「まあ、たまの火遊びもいいよな」

怪我がなかったからいいようなものの、とは誰も言わなかった。
ここには3人しかいないし、何かあっても対処できる。
それだけの力がそれぞれにあり、なにより、こんなバカげたことをできるだけの時間も環境も今までなかったのだ。
(いいものを見た)
シャドウは、エドガーとセッツァーがくだらない冗談を言いながら笑うところを見られて満足した。
エドガーは、炎に照らされるシャドウの横顔と、声を出して笑った彼に見とれた。
セッツァーは、そんな彼らに最大限の祝福を。
「遅くなったけど、これ、誕生日祝いってことで」
グラスに注いだ酒をそれぞれに持ち

「「「乾杯」」」






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