「好きになったきっかけは?」
スカーフェイスのギャンブラーが遠慮なく尋ねるとポーカーフェイスのアサシンは、さあなと言うように僅かに首を傾げるだけだった。
セッツァーの持ち込んだ酒瓶の封を切り杯を重ねてはいるが、まだまだ宵の口。
酔ってはいるが酔っ払っているのではない。
何杯目かのグラスの氷が、控えめに音を立てた。
今日は珍しく、セッツァーとシャドウだけで飲んでいる。
ファインフェイス(セッツァーにとってみたらエンジェルフェイスかも知れないが)のキング、エドガーは、後から合流する予定だ。
場所はいつもの小サロン。
たまには外で飲むほうがいいのじゃないかと水を向けても、街まで出向くのはなにかと面倒がついて回るというのがセッツァーの言い分だ。
内緒話には向かないだろう? とも言っていた。
確かにタイプの違ういわゆる 「イケメン」 が3人も連れ立って酒場にいけば、いろんな意味で騒がしくなるに違いない。
「顔……じゃないな。エドガーよりマッシュと先に会ってんだろ」
体格のいいマッシュはその鍛え抜かれた体躯に目がいきがちだが、エドガーの双子の弟だけあって、実は非常に整った顔立ちをしている。
「ま、見た目じゃないよな。うーん」
グラスに口をつけるセッツァーの対面、カウンター内に座るシャドウはその表情を崩さない。
エドガーやセッツァーよりもいくつか年上であろうその男の表情からは、セッツァーの望む答えを読み取れない。
今日はこの話を肴に飲むと決めたらしいセッツァーに、やはりその表情を崩さぬまま、内心若干呆れながらシャドウは口を開いた。
「……なぜ知りたい?」
「知りたいからさ。いけないか?」
「知ってどうする?」
「どうもしない。俺の好奇心が満たされる。それだけだ」
とにやりと笑って、つまみのナッツを口に放り込む。
セッツァーはギャンブラーだ。
賭けの対象にして聞き出すこともできたはずなのに、口には出さない。
そうやって聞き出したところで、真実が得られないとわかっているからだ。
本物にしか意味がない。
まして、仲間に対して立ち入ったことを聞き出すのにそれを賭けるのは彼の流儀に反する。それを、シャドウは理解している。
「言いたくないといったら?」
「別にかまわない。その代わり想像するのは許してもらう」
「……想像?」
「そうだな……。たとえば……。あの女好きがいきなりあんたに手を出すとは考えられないからな。十中八九、一目惚れだろうな。でもあんたが先に落ちてる。エドガーはたぶん、なんかの拍子に素顔見てからってとこだろう」
と、頭の横に光った電球が見えそうな閃き振りで人差し指を立てたセッツァーに、さすがにシャドウは苦い顔をして、手のひらで指をやんわり払う。
「っていうようなことを」
「……勘弁してくれ」
「いやだね」
「……」
その後もあれこれ想像を披露し続け、終始いたずらっぽく笑うセッツァーをとめるすべはないものかと思案し始めたころ、ようやくエドガーが合流した。
「盛り上がってるじゃないか」
二人の酒盃はいつからか空のままで、セッツァーの酒瓶は半分をきっていた。
「好きになったきっかけ?」
先ほどまでの二人の会話をセッツァーがかいつまんでエドガーに説明する。
「いやあ、あのポーカーフェイスが崩れるの、お前にも見せたかったぜ。いい肴になった」
それを聞いてエドガーはなにやら思案している。
「そういえば、俺も聞いたことがない」
「はぁ?」
シャドウは相変わらずのポーカーフェイス。だが内心、そういえば話していないし聞いてもいないなと思う。
隣のエドガーと対面のシャドウの顔を交互に見ながら、セッツァーは驚いた声を上げた。そして、チャンスとばかりに畳み掛ける。
「いい機会だ。聞いとけよ。俺も知りたい」
「何でお前も知りたいんだ?」
「知りたいからだよ、悪いか」
「悪い!」
その間、この会話俺もしたなと若干辟易しながらシャドウは黙って酒盃を傾けていた。
好きになったきっかけだなんて、そういえば、考えたことなかったなとシャドウは思う。
俺だってはじめから男が好きなわけじゃなかった。いや違うな、今でも男が好きなわけじゃない。
エドガーだけが、特別、なんだ。
どうして?いつから?
「じゃあお前聞きたくないのかよ?」
「聞きたいさ!」
「だったら聞けよ! こんなチャンスそうそうないぜ? 今だったら酔った勢いで済むし、聞かなかったことにするから! 2度と聞かないし。な?」
『 なぁ、シャドウ、俺(エドガー)のこと好きになったきっかけは? 』
二人の声が重なる。
その問いを、シャドウは聞いていなかった。
耳に入らないくらい、思い返していたからだった。
アルブルグ? サマサ? 魔大陸脱出のとき? 獣が原とかコロシアムとか……。
いや、コーリンゲンのパブ、だ。そこで初めてエドガーに会った。
……否、エドガーに言わせれば、 「もっと前に会っている」 のだという。サウスフィガロの酒場で、俺を見掛けたのだと。
そうかもしれない。 「ロックが話し掛けたが、振り向きもしなかった」 と苦笑する彼が言うように、俺にはその時の記憶がほとんどなかったが。
だから俺にとっては、言葉を交わしたコーリンゲンが初めて会った場所になる。
そう、一目で惹かれた。
青い目、金の髪、鍛えた体、佇まいに。
そのうち、声に、笑顔に、夢中になった。
ひかりを纏う王の風格に、その温度に、酔った。
彼に、溺れた……。
今でも溺れてる。
「……一目惚れ……だ……」
『 え? 』
そこで初めて、二人の声が耳に入った。
(今、一目惚れって言ったか?)
(まじかよ、やっぱりな!)
エドガーとセッツァーに驚きの目を向けられたシャドウは、しまったとばかりにうつむく。
だが見る見るうちにその両耳が酔いばかりの理由でなく赤くなるのを隠せはしない。
「わ、悪いシャドウ。も、もう一回、言って、くれないか?」
エドガーは興奮を抑えきれず、つっかえながら乞い願う。
「一目惚れだ! 理由なんかない! わるいか!!」
シャドウはかなり珍しく声を荒げ、部屋を出て行ってしまった。怒りのためではなく羞恥のために赤くなって。
彼の出て行った扉を呆然と二人で見つめたまま、セッツァーが口を開く。
「お前はどうして?」
「一目で落ちたに決まってる……!」
最後に残った一口を勢いよく飲み干して叩きつけるようにグラスを置き、エドガーも愛しい人を追いかけていった。
振り返りもせず、ゆっくりして行けと言い残して。
「……ごちそうさん」
空になってしまった酒盃に残り少ない好きな酒を注ぎながら、少しでもこの夜が長く続くように祈るセッツァーだった。
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