「ちっ・・・・・・」
シャドウに似合わない舌打ちと同時に、最後に残った刺客は倒れた。
城内に侵入されなかったのはいいが、背後から撃たれたのは屈辱だ。
「腕が落ちたかな・・・・・・」
シャツの左袖を破り、傷を縛る。
ため息をひとつ。
さて、どうしたものか。
「医者に見せたほうがいいんじゃないか?」
その言葉にシャドウは、片手だけで器用に服を脱ぎ捨てた。
「こんな状態でなければそうしている」
あらわになった上半身に散る、昨夜の情事の跡。思わずエドガーが押し黙る。本当は誰にも彼の裸体を見せたくない。
まして、こんな姿はなおさら。
「責任、取るよな?」
暗に、昨夜のせいで体が本調子でなかったとにおわせる。
今なお肩の傷口から流れ出るシャドウの血液が、左腕を伝って浴室の床にぽたりぽたりと落ちていく。
かなりの痛みが襲っているはずなのに、口元には微笑すら浮かんでいる。そのひどく扇情的な姿にエドガーは
「・・・・・・仰せのままに」
と、女王に仕える騎士のごとく恭しく礼をするばかりだった。
薬草、毒消し、タオルに縫い針、ナイフ、飲み水、酒。
医者に見せられないとなると、用意できるものは限られる。
野戦病院でさえもう少しましなのだが、まあ、こんなものかとエドガーは思う。
「初めてってわけじゃないが、あまり上手くない。勘弁してくれ」
タオルを差し出してエドガーが言う。
苦痛に耐えられないなら噛め、そういう意味だ。
「かまわん」
消毒のためにシャドウは自ら自分の肩に酒を注ぐ。
浴室に満ちる酒と血のにおい。酒の沁みる痛みを堪えるシャドウの息遣い。それだけで酔いそうになる。
十分に消毒されたナイフで傷口を切り開き、体内に残された異物を摘出する。
その間シャドウはかすかに眉を動かしただけで、うめき声ひとつもらそうとしない。ただ、タオルを握る右手が、いつもより白くなっていた。タオルがなければ、爪が手のひらに食い込んでいるに違いない。
「声、抑えなくていいんだぞ。喚いたほうが実際よりも痛みを感じないはずだ」
そう声をかけても浴室の床に横たわったシャドウはただ、たいしたことないというように自由の利く右手を振っただけだった。
すべての処置を終え声をかけるが、反応がない。
あまりの痛みに、シャドウは気を失ったらしい。
無理もない。魔法があるならいざ知らず、輸血も麻酔もなしに体を切り開かれたのだから。
呼吸が確かなのを確かめ、彼を小サロンまで運ぶ。
彼に服を着せて、ソファに凭れさせる。
かなりの出血があったためか、彼の白い肌はいっそう白く、心なしか体温も低い。
セッツァーの酒を口に含み、シャドウに口移しで与えた。
アルコールがのどを焼く。その刺激でシャドウは目覚め、盛大に咳き込み、傷を押さえた。
「・・・・・・落ちたのか・・・・・・」
「ああ。気分はどうだ?」
「・・・・・・最悪だ」
噴出した冷や汗で張り付いた前髪をうるさそうに掻き揚げながら、シャドウはソファに沈み込んだ。
「しばらく安静だな。当然、酒もなしだ」
「ああ」
その言葉とは裏腹に、シャドウはエドガーの手から酒瓶を奪い、おもむろに口に運ぶ。
「お、おい」
エドガーの腕をつかんで引き寄せ、口内の酒を唇から注ぎこむ。
少しあふれた琥珀色の液体は、シャドウの細いあごを伝い、胸元に小さな染みを作った。
「血を流しすぎたからな、寒いんだ」
冷ややかな唇、のどを焼くアルコール。その温度差に、エドガーは軽いめまいを覚えた。
「あたためて、くれるだろう?」
「・・・・・・仰せのままに」
傷に障らぬようにシャドウの隣に座り、エドガーはそっと抱き寄せた。
二人の体温が同じになるのに十分な時間が、砂漠に流れた。
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