● ご注意

ここから始まるSSは、いわゆる現パロなので、お嫌いな方は注意してください。
キャラ設定は変えていませんが、エドガーとシャドウが現代日本に来ている。といった感じです。
文明、言語、アイテム、その他もろもろ彼らには驚くことがあるはずですが、そこは重要じゃないので、
ぶっちゃけた話、外国人(男)カップルが日本に来たぜってくらいのスタンス。

それでもOKな寛大な方はスクロールをどうぞ。













エドガーの誕生日を、海外で過ごすことにした。
8/16をはさんでトータル2週間の休暇。
そのためにエドガーは普段以上の書類の束と格闘し、勝利した。
いつになく疲労するエドガーにしてやれることは、そばにいて息抜きの話し相手になるとか、マッサージをしてやるとか、そんなことしかない。
あとは……たまにやってくる敵を排除するくらいだ。もちろんそれは内緒だが。

あちらですごすための準備は、あまりしていない。
旅券と宿の手配くらいだが、そのあたりは、休暇を聞きつけたセッツァーに一任させてもらった。彼からのプレゼントということで。
……彼からのプレゼントは時々気が利きすぎていることがあるので、一応注意はしておいたほうがいいのだろうか?
ほかに何か必要なものがあれば買えばいいし、荷物になったら捨てるか売るか、送ればいい。
言葉に関しては最近は優れた翻訳機があると聞く。コミュニケーションはエドガーに任せていればいい。

移動中にたくさん眠ったので、エドガーの目の下のくまはきれいに消えた。
長時間座りっぱなしの姿勢はつらいが、座席は比較的ゆったり目で、窮屈な思いはしなかった。
飲食物は見慣れないものだったが、味はよかった。
セッツァーの艇よりずっと高いところを比べ物にならないスピードで飛んだのだそうだから、景色はあまり楽しめなくても残念に思うことはない。そんなものより、エドガーが誰にも邪魔されずに眠れることが何よりも嬉しかった。



到着後、ひとまず宿へ。
かなりの距離を移動したが、うわさに聞く時差ぼけはない。昼夜を問わない行動にはお互い慣れている。
部屋はいわゆるスイートとかいうものらしい。
誰を招く予定もないのに、やたらと広い室内とやたらと大きなソファ。こんなソファがあったらベッドなんて要らないのにと思ったら、隣の部屋には男が二人で大の字になってもまだ余裕がありそうなベッドが鎮座していた。城のエドガーのベッドより大きいのではないだろうか。
そんなことを考えていたら、エドガーに腕をとられて、抱きしめられながらベッドにダイブした。
背中から落ちたエドガーには、痛みを感じた気配がない。それもそのはず、スプリングの性能がいいからだ。控えめに軋んで、受け止めてくれた。
エドガーの体温を感じる。
そういえば、久しぶりだなと思う。たぶんエドガーもそう思ったんだろう。
ふと枕元に目をやると、メッセージカードがある。たったひとことだけ。
「HAPPY BIRTHDAY」
誰にも邪魔されない空間と時間。抱擁。休暇の始まりには最高だ。



それからは、いろいろした。
街に出て、セッツァーおすすめの場所を見て回り(宿の案内係が「伝言を預かっております」と言って、セッツァーからの手紙をよこした)、必要なものを買い込み、珍しい料理や酒を楽しみ、時々は、ベッドの性能を確かめたりした。
昼まで眠り、おきては眠りを繰り返したり、ひたすら互いを求めたりもした。
かつて、こんな生活があると考えた事があったろうか。
夢のようだ、と思う。幸せだとも、思う。
いつかどこかで聞いた「幸せすぎて怖い」とは、こういうことなのだろうか。
そんなことを考えれば、エドガーはすべてを見通すような瞳で、ほほえむのだった。



誕生日当日。
事前にセッツァーが伝えていたようで、宿の夕食は誕生日の特別メニューだった。
ここからなら花火がご覧いただけます、と給仕が言って部屋を出た。照明をわずかに落として。
ハナビ?
二人で顔を見合わせた。
あたりはすっかり暗くて、足元にはあまたの光が輝いている。その代わり空に星は少ない。天地がさかさまになったのだとしても、こんなには星は瞬かないだろう。
しばらくして。
急に室内が明るくなった。
夜空に花が咲いたのだ。
食事を中断し、窓際に立つ。
赤や黄色、たくさんの星のかけらが、散っては消え、流れては消えていった。
光の粒でできた大小さまざまの花たち。
鮮やかに咲き儚く散っていくさまは野の花と変わらず美しく、命を思わせた。
いつからか繋いだ手に少しだけ力をこめる。エドガーの確かな熱が感じられた。

後に、花火には鎮魂の意味があると知った。

翌日、花火は売られていると知り当然のごとく買い込み、宿の人間に許可を取り、中庭での花火を提案してきたエドガーの行動力といったら!
暗くなるのを待ち、バケツと水を用意する。
風はあまりない。
絶好の花火日よりらしい。
昨日の花火のように大空に咲くものではなかったが、その美しさは変わらない。
吹き出て光るもの、ぱちぱちと舞い散るもの、けたたましい音を立てて光の尾を引き飛び行くもの、落下傘が舞い降りるもの……。
時々宿のほかの客も混じり、花火に興じる。
火のそばに人は集まるようにできているのだ。

どこから聞いてきたのは知らないが、最後はこれらしいぞと、エドガーに手渡されたのはあまりに頼りない紙の紐だった。
端を持つように言われたが、どちらが端かわからない。
とりあえずエドガーの様子を見てみることにする。
向こう側が透けて見えそうなほど薄い紙を縒ってあるらしいその花火の、縒り残したほうを持つ。
火をつけるとじりじりと燃え出し、やがてぱちぱちと爆ぜた。
するとその瞬間、風に揺られて、小さな火の玉が落ちてしまった。よく見ると燃えるべきところはまだ半分ほど残っている。エドガーは悔しそうに燃えカスをバケツに放り込むと、再び紙紐を手に取る。
線香花火というらしい。
なるほど、振動に耐え最後まで燃やすのがこの花火の醍醐味というわけか。
いざ。

結論から言うと、俺は最初の一本を、最後まで燃やすことに成功した。
火をつけようとしたエドガーは自分の分を後回しにして、二人で俺の手元を見守った。
風上に背を向けて風を抑え、息をするにも慎重になった。
じりじりと火の玉が大きくなっていき、ちとちいさなちいさな火花が弾け、その火花の数が増えていく。その火花を散らすのは紙紐にしがみつく火の玉。落ちるなと、二人の念が通じたのか、やがて火花は小さくなり静かに消え、火の玉も熱を失った。

蕾、牡丹、松葉、散り菊と燃え方の段階に名がついていると教えてくれたのは、宿の人間だった。
まだ消えないで、もう少し続いてと、この時期(この国で今は夏季休暇の季節だそうだ)を名残惜しく思うのだとか。

最後の線香花火が消えたとき、ああ、やはりこれは命の輝きなのだと思った。



帰国の朝、なんだかいつも以上に早く目が覚めてしまった。
隣で眠るエドガーを起こさないようにベッドを抜け出す。
ここで名を呼べば、きっと彼は目を覚ます。いやもう目覚めているのだろう。
それでも彼が声をかけてこないのは、この時間が俺に必要だと感じているのかもしれない。
朝日が昇る前の空の色は、ここでも同じだ。
窓は開かない作りなのでカーテンだけを少し開ける。
外を見ながら思い出す。
城の隠し部屋から見た、あそこで一番早い夜明け。
「誕生日、か……」
自分の誕生日は覚えていないが、少なくとも自分も1年生きた。
これから先何年生きられるのかはわからない。
何度夜明けの空を見られるのか、考える気もない。
ただ、
「生きて、生きて、消えるだけだ」
この大地が経た悠久からみたら、ほんの一瞬花火のように燃えて尽きる命であっても。
「あんたといっしょに、な」
背中にかけられた声に、頬が緩んだ。
やっぱり起きていた。
近づいてくるのがわかる。きっと後ろから抱きしめられるに違いない。

その熱さが、それこそが、生命の輝き。






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