とある大物俳優たちの結婚報道に世間が沸いた。
二人とも人気の演者であり、交際すら公表されていなかったため、周囲を大いに驚かせた。
新聞をはじめとする各種情報誌はこぞって二人を取り上げ、いつになく売り上げを伸ばしたという。
中でも人気が顕著なのは、とある独占インタヴューを載せた某週刊誌。
『話題の二人にズバッと直球! みんなが聞きたい50の質問』
コーナーはこの雑誌の定番だが、なんか微妙なタイトルだなと、セッツァーはページをめくる指を早めた。

補給に立ち寄る街々でその地方の情報を集めるのは、セッツァーの実益を兼ねた趣味のようなものだ。
自身が経営するカジノの『お客様』とのコミュニケーションには、最新の情報がものをいう。
世界情勢はもちろんのこと、ファッションやらグルメやら果てはゴシップまで。特に興味はなくても情報収集が苦にならないし、もともと芸能関係は嫌いではない。
そんな彼が、カフェでの補給物資の積み込み待ちに、目についた適当な雑誌を手に取るのは自然な流れだったのだ。

今回の結婚報道にはセッツァーも驚いたが、考えてみれば、なるべくしてなった、というだけの気がする。二人とその周囲がうまく立ち回っていたから気付かなかった、というだけだ。
いわゆる似合いのカップルが、インタヴュアーの質問に答えていく。
名前や性別などすでに公開済みのデータに始まり、初公表する出会いのきっかけ等々……。
へぇそうなんだ、だの、だろうな、だの適当な相槌を脳内で打ちながら最後の質問を読み終わるまえに、積み込み作業員の終了報告が来た。
料金とチップを払い、せっかくだから飲み物ももう1杯頼んで最後まで読んで行こうと腰を落ち着かせかけたセッツァーだったが、目に飛び込んできた文章に立ち上がる。
『次号予告。今をときめく砂漠の若き王、エドガー・フィガロ陛下に直撃! みんなが聞きたい聞けない、あんなことやこんなこと、ぜーんぶ公開しちゃいます! 乞うご期待!』
雑誌を買い取り、飲み物はキャンセルしつつも料金を支払い、ここからフィガロまでの航路を割り出す。
おいおいおいおいマジかよキング。
長い上着の裾が乱れるのにも構わず艇へと走るセッツァーに、先ほどの作業員が声をかけるが、手を振り返すのが精いっぱい。
半ば信じられないが、中身はともかく信用できる雑誌ではある。エドガーが何をどう話したのかはわからないが、少なくとも出鱈目なことは書かれないはずだ。それにしても。
……もうちょっとましな次号予告は書けなかったのだろうか。




フィガロ到着は夜だった。近くの町に降りて城へのつなぎを頼み、連絡を待っていたらこんな時間になってしまった。
何から話そうか頭を整理する時間があったのはありがたい。
いや、全然整理されていない。
あれが単に50の質問なら何も気にならないのだ。問題は『カップルに50の質問』ということだ。
ということは、エドガーとそのお相手に、ということになる。
つまりそれは、今までごくごく限られた者しか知らなかったエドガーの『お相手』を世間に公表することに他ならない。
そう、シャドウを!
確かに王のお相手ならいつまでも隠しておけない。だが仮に公表するにしても、こんな方法を採用するはずがないんだ、おれが知るふたりは!
待てよ、このエドガー陛下が別の国のエドガーの可能性は……そう何人も砂漠の若き王がエドガーであってたまるか。
まさか、適当な人物に置き換えて、適当な返答をしたとか? あのエドガーが? あいつは確かに手当たり次第なところはあるが、本命がいるのに冗談でも他のやつのことを考えたりしない。
そもそもなぜ自分がこんなに動揺しているのか不思議で仕方がない。
いや、そんなことは、どうでもいい。

シャドウは、このことを、知っているのか?

手っ取り早くこの雑誌を見せればいい、そうひらめいたのは、エドガーの前に立ってからだった。

挨拶もそこそこに、すっかり開き癖のついてしまった例の雑誌の例のページを指し示す。
「どういうことだ?」
それだけ言えば、わかってもらえる確信があった。
「どういうことも何も、書いてある通りだが」
セッツァーの剣幕に、珍しいものを見ているな、という感想しかないエドガーだった。いきなり雑誌を見せられたことにも、さすがセッツァー目ざといな、としか思わない。
「まさかお前、こんな雑誌一つでシャドウとのことを世間に広めちまう気なのか?」
そこで初めて、何か誤解があるらしいとエドガーは気づく。
「なんでそこにシャドウが……。ああ、全部読んだわけじゃないのか」
セッツァーが広げたままの雑誌、例のページを一枚めくって見せると、最近人気の劇団による新作公演の特集が組まれていた。
「なんだこれ」
前のページの衝撃で、セッツァーは特集記事に気づいていなかった。



素面では面白くない、とエドガーに促されて場所を移す。
シャドウは所用があってしばらく帰らないという。
内容が内容だけにシャドウにもいてほしかったが、仕方がない。
いつもの部屋で酒を用意して、エドガーの話を聞くことにする。

「プロフィールを使いたいっていうから脚本やらスタッフやらキャストやらをぜーんぶ調べてね、問題ないところだけ許可したんだ。もちろん、俺自身は無関係だってことを前面に押し出してもらう条件で」
雑誌と劇団側が用意した質問にエドガーが答え、城側の検閲が入るという流れを踏んだらしいが、実際のところ使えたのは半分も無いようだ。せいぜい世間一般が知っている程度の情報と、ビジュアルくらいのものである。
本当は100問の質問で、後半は性生活に触れるので却下したということだ。
「というかそもそも俺のプロフなんかいらないと思ったんだがな。現実味があったほうが売れる、といわれてな。俺のイメージを損なわない程度で、ということで許した」
断ってもよかったが、名前を無断で使われて知らずに騒動に巻き込まれるなんてことにでもなると面倒だし、ここまでエドガーとそっくりの人物像を描くなら条件付きで許可したほうが得策と判断したということだった。
「そういうことかよ、焦ったわ……」
かっこわりぃな、と前髪を掻き揚げるセッツァーの頬は、酒のせいでなく赤い。
「珍しく取り乱していたな。……心配してくれたんだろう? ありがとう」
セッツァーの空いたグラスにおかわりを注ぐエドガーだった。

「ところで、回答見るか? 『エドガー』版しかないが」
劇中のエドガーのお相手は当然、シャドウではない。相手役の役者が役に沿って答えることになっているため、ここにはないとのことだった。
「見る」
即答である。



1 あなたの名前を教えてください。
エドガー・フィガロ
2 年齢は?
27歳
3 性別は?
男性
4 貴方の性格は?
女性にだらしない、と思わせておいたほうがなにかと都合がいい、と考えるような性格、かな。
5 相手の性格は?
よく言えば慎重、悪く言えば臆病。厳しいけれどとてもやさしいよ。
6 二人の出会いはいつ?どこで?
言いたくないなあ。
7 相手の第一印象は?
運命だと思ったよ。
8 相手のどんなところが好き?
私だけが知っていればいいので、言うつもりないなあ。
9 相手のどんなところが嫌い?
嫌いというよりは仕方がないと諦めているんだけど。私の想いが不変じゃない、と思っているところ。
10 貴方と相手の相性はいいと思う?
いいと思うよ。
11 相手のことを何て呼んでる?
名前で呼ぶことが多いかな。
12 相手に何て呼ばれたい?
呼んでくれるなら何でも。
13 相手を動物に例えたら何?
考えたことなかったな。群れなくて強いけど、仲間意識が強い動物って何かな?
14 相手にプレゼントをあげるとしたら何をあげる?
ほしいものを。サプライズは得意じゃないんだ。でも、何も望んではくれないんだよね。
15 プレゼントをもらうとしたら何がほしい?
もらえるならなんでも。
16 相手に対して不満はある?それはどんなこと?
特にないかな。ああでも、そんなに気を使わなくていいのに、って思うことはあるかな。
17 貴方の癖って何?
自分では気づかないな。
18 相手の癖って何?
言いたくない。
19 相手のすること(癖など)でされて嫌なことは?
知らないところでケガすることかな。
20 貴方のすること(癖など)で相手が怒ることは何?
怒られたことはないけど、寝室で休めと思われてはいると思う。
21 二人はどこまでの関係?
肉体関係の有無を聞いているのかい? 想像にお任せするよ。
22 二人の初デートはどこ?
教えてあげないよ。
23 その時の二人の雰囲気は?
緊張していたかな。
24 その時どこまで進んだ?
どこまで、とは? ああ、そういう……。言えないな。
25 よく行くデートスポットは?
教えられないよ。秘密の場所だもの。
26 相手の誕生日。どう演出する?
贈り物と祝福を。派手なことは嫌いな人なんだ。
27 告白はどちらから?
私からだったよ。
28 相手のことを、どれくらい好き?
何をしてもいい、生きていてくれるだけでいい、あの人の望みが全て叶えばいい、と思えるくらい。
29 では、愛してる?
愛してる。
30 言われると弱い相手の一言は?
教えてあげられないなあ。
31 相手に浮気の疑惑が! どうする?
どうもしない。ありえないからね。
32 浮気を許せる?
私以外の人間との接触が許せないとは思わないね。仮に、もう私に気持ちがないのならそれは浮気とは言わないだろう?
33 相手がデートに1時間遅れた! どうする?
来たなら事情を聴くし、来ないなら探させる。
34 相手の身体の一部で一番好きなのはどこ?
選べない。強いて言うなら、その魂だろうか。
35 相手の色っぽい仕種ってどんなの?
教えられるわけがない。
36 二人でいてドキっとするのはどんな時?
ふたりでいてドキッとしないなんてことがあるなら教えてほしい。
37 相手に嘘をつける? 嘘はうまい?
つけるしうまいとも思うが、たぶんすぐに気づいて気づかないふりをしてくれるだろうな。
実際についたことはないが。
38 何をしている時が一番幸せ?
一緒にいるとき。
39 ケンカをしたことがある?
ない、と思う。
40 どんなケンカをするの?
そもそもけんかになる事態が思い浮かばないな。
41 どうやって仲直りするの?
ひたすら話し合うのじゃないか?
42 生まれ変わっても恋人になりたい?
仮に生まれ変わったとして、記憶が維持されるのならば恋人になるだろうが……。
何をもってあの人だと判断するのかわからないな。
43 「愛されているなぁ」と感じるのはどんな時?
そばにいてくれる時。私のところに帰ってきてくれる時。
44 「もしかして愛されていないんじゃ・・・」と感じるのはどんな時?
ない。
45 貴方の愛の表現方法はどんなの?
言葉と態度でしめす。
46 もし死ぬなら相手より先がいい? 後がいい?
後、だな。
47 二人の間に隠し事はある?
隠したいことはないが、言ってないことや言うつもりのないことはあるな。
聞かれれば全部答えるよ。
48 貴方のコンプレックスは何?
地位、かな。
49 二人の仲は周りの人に公認? 極秘?
公認であり極秘、といったところか。
50 二人の愛は永遠だと思う?
少なくとも、死が二人を分かつまでは。



「これ、検閲前か?」
「いや、済んでる。それがまんま載るよ。シャドウには見せたし、そもそも『俺』じゃなくて役者演ずる『エドガー』だからなあ」
質問に答えるにあたってチェックした脚本から、エドガーは自分と『エドガー』に合う部分だけ答えたつもりだった。自分にずいぶんと似たような人物像を持ってきたものだと感心さえした。
あえて嘘をつく必要がない。つまり、答えた部分は、真実なのだ。
「にしても、だいぶ答えすぎじゃないか?」
セッツァーが知っていることも知らないことも知りたいことも、答えられたりはぐらかされたり。それでもこれは、知っている人間が読んだらシャドウがエドガーの恋人だと知られてしまうのではないかと危惧する。
「俺たちを知るお前だからそう思うのさ。俺としては、シャドウの名にさえつながらなければどうでもいい。が、さすがに完全に独り身だとは思っては貰えなさそうだ」
「シャドウはなんか言ってなかったか?」
記事の扱い次第では、自分が国王の恋人だと公表されてしまう可能性があるのだ。よくこの質問にここまで答えることを許したものだなとセッツァーは思う。
「脚本も見せたがな、この程度なら普通に答えればいいのじゃないかと言っていた」
この質問程度で読者は国王の相手が男(俺)だとは気が付くまいよ、それがシャドウの答えだった。
年上だと思われたところで、結局、演劇の設定でもあるからな、とも。

エドガーは、シャドウと付き合っていると公表しても構わないと思っている。が、決してしない。
シャドウが望まないからだ。
シャドウも本当は、秘密にしたいわけではない。エドガーが公表するというなら、すればいいと思っている。
ただ、面倒なのが嫌なのだ。
エドガーに確実に降りかかるだろう面倒と迷惑が嫌だと、シャドウが思っているからなのだ。

「結局、お相手は公表しないけど『いる』んじゃないかって勘ぐられてる感じか」
「そうなるな」
「口止めしたんだろうな?」
「だからあれは、俺じゃなくて『エドガー』だ。宣伝用だしな、せいぜい売れればいい。ただ」
「ただ?」
「『俺の相手』に関して嗅ぎまわったらどうなるかわかるよな? とは言ってある」
「おまえそれ逆効果だろ」
「いいんだよ。基本は無視だ。仮に何かあってもどうにかするのはシャドウに任せる。おれは公表してもいいんだけどな」
……『どうにか』の内容とシャドウの不在の理由は、聞かないでおいたほうがよさそうだ。



その後くだんの演劇は、『エドガー・フィガロ』は名前を使う許可をいただいた、その他の設定はすべて作品のオリジナルで実在のフィガロ国王には何の関係もない、と大々的に宣伝していたおかげか、『目立った』騒動もなく好評のうちに千秋楽を迎えた。
ほどなくして、主演俳優と主演女優が結婚すると発表され、今度は劇中人物としてではなく夫婦として、『あの』質問に答えていた。


すべてのこいびとたちに、幸いあれ。
雑誌を閉じながらセッツァーは、彼のこいびとたちを想うのだった。






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