塩漬け豚をいくつか、塊で。
それとピクルス三瓶に、白パンとミルク、それからチーズ。後は……ええと、何でしたっけか。
買う物のメモを見ながら、一軒一軒お店を回ります。回るごとに、紙袋や包みが増えていきます。

他の街や村では、荒れゆく今の時代、人口そのものが減ってしまったこともあってか、幾分客足が衰えている印象がありました。
けれど此処──ジドールには、世界が崩壊する以前にも来た事があったんですが、その時も今も、客の入りはあまり変わらないように思えました。
この街はどちらかと言うと、世界が引き裂かれたことからの影響を、比較的受けていない部類に入るのかもしれませんね。
人々も街並みも流れる空気も、悲観的でなく、かと言って楽観的すぎでもありません。
独特の雰囲気が静かに満ちているこの街での買出しは、とても順調に進んでいきました。
流石にわたし一人では持ちきれない荷物も、二人でならば何とかなります。
本当に、とても助かっているんですよ、シャドウさん?


それぞれに専門のお店を訪ねるので、時間が掛かってしまいますよね。
もしもこれがスーパーマーケットやショッピングモールだったりしたら、いくらか早く済んだかもしれない、なんて思ったりします。
いえ、実際には目移りしてしまって、もっと時間が掛かるかもしれませんね。
……ああ、いえ、ごめんなさい。お気になさらないで下さい。わたしの世界の話でした、これは。とにかく、それはそれとして。

メモを見ながら歩きます。
食べ物に日用品、嗜好品、それからエーテルや聖水のような、わたし達の旅に必要なもの、その他諸々──。
何班かにパーティーを分けて、武器防具屋やアクセサリ屋を回る班、食料やアイテムを購入する班、オークションを覗きがてら情報収集する班、飛空艇に残る班……。そんなふうに、メンバーを振り分けました。

わたし達の班にもう一人くらい、人数を割いてもらっても良かったなと思わないでもないです。少し人数が、武器防具組に偏ったかもしれませんね。
けれどまあ、今更ですし。二人だけじゃどうにもならない、というわけでもありません。
石畳の道を歩きます。黙ってシャドウさんは後ろからついて来てくれます。
わたしも茶色い紙袋を二つ抱え、一つ紙袋を提げて片手にメモという状態ですが、シャドウさんはもっとたくさんです。
幾つかの荷に阻まれていて、正面から見たなら貴方の黒色面積は余裕で普段の三割を切ると思います。
わたしは自分の手首を何とか、目の前に持って来ました。
見ると、腕時計の針は午前十一時二十六分を回ったところです。
一区切りをつけて、飛空艇待機班と共に昼食を取ってもいい頃合かもしれません。今さっき買ったばかりの、焼きたてのパンもあることですし。

「シャドウさん、そろそろ一旦ファルコンに戻った方がいいですよね」

意見を仰ぐというよりわたしの意思を伝える意味で、そう言いました。
シャドウさんは特に言葉を発することはありませんでしたが、微かに肯く動作があったのを確認します。
まあ、荷物を置いて昼食を取ったらまた、二度目の買出しに戻ってくる事になるんですけどね。
まったく、こういった日常生活の一部分も、多くの人数を抱えると途端大変になるものです。買うものの量が、半端じゃありませんからね。
……ああ、なのに、それだというのに。

「早くしないと置いてっちゃいますよ、シャドウさん?」

向こうは大荷物、こちらはそれに比べて多少は楽です。
わたしは少しわざと距離をあけると、そんなふうに声を投げました。
いつもは貴方の方が主導権を握っています。たまにはわたしの方に、其れが移ったっていいとは思いませんか?
……もう、冗談です。本気にしないで下さいね?
とにかく、わたしはそう言って、 『 少しくらいなら待ってあげたっていいですよ? 』 みたいな顔をしました。


「……先に行っていても構わん」
「シャドウさんを置いて行くわけ、ないじゃないですか」


さっきとは真逆の事を、しれっと言ってのけてみます。
わたしは腕組みをして(荷物を抱えているのでちゃんとは出来なかったのですが)、 『 本気でそんな事するわけないのに、まったく 』 と言わんばかりの表情をしてみせました。
シャドウさんは息つくように一瞬顔を伏せ、直ぐにそれを元に戻します。両手の荷を抱え直します。
静かに打ち寄せては引いていく海の波のように、此方に向けられる目はひどく穏やかなもののように見えました。
──ああ、大変なはずの買出しも、こんなふうに楽しいのは如何してなのでしょうね。

わたしはそんな事を思いながら、シャドウさんが傍へやってくるのを待ちます。
そうする間の僅かな刹那、ふと、思います。この瞬間が何物にも代えがたい、大切な時間であるのだと。
思った途端の事でした。何故だか突然、嬉しくて堪らなくなりました。
何がと言われても、説明なんて出来ないんですけれど。……なんでしょうね、急に、わーっとそんな感情が溢れて溢れて、自分でもその感覚を、どうする事も出来なくなってしまったというか。そんなような、感じです。


「……どうした?」
「いいえ、何も」


すぐ目の前まで来たシャドウさんが訊ねるのに対し、わたしはそう答えるしかありません。
その時は、わたしは自分を言葉で表すことなど出来ず、ただその感覚に耐えるしか術はなかったんです。
ああ、きっと我ながら、ニヤニヤしていたでしょうね。気持ち悪がらせてしまっていたら、申し訳ないですけれど。
それでも、胸が詰まるほどの想いをやり過ごします。無理矢理に。強引に。
わたし達は大変な荷物を抱えながら、一度目の帰路につきます。お昼の後は、二度目の買出しが残っているんです。
そしてきっと、わたしは同じことを思うのだと思います。
答えの判っている、問いにもならない言の葉の連なりを、また、繰り返し。
──ああ、大変なはずの買出しも、こんなふうに楽しいのは如何してなのでしょうね、と。






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