みんなで最後の戦いに挑む、前日の夜。
眠れないとか、気持ちが落ち着かないとか、そういう理由でデッキに向かったんじゃないんです。
ただ、ファルコンの甲板から眺める夜空を見ておこうと思ったんです。
もしかしたら、見納めになるかもしれないって。
そう思って。
……シャドウさんの方が、先客でしたね。
インターセプターは見当たりませんでしたけど、ひとまず近くの手摺りに手を掛けて。
言いました。
「お邪魔ですか?」って。
「いや」、そんな短い返答がありました。
夜の風が少し揺らいでいました。
空は白い月が浮いていて、穏やかな夜だったと言えるかもしれません。
……みんなは、どんな心境でこの夜を過ごしたんでしょうね。
わたしは……。
まあ、全員揃って帰ってくることを考えてはいましたけれど。
そうじゃない可能性もありますよね。
例えば、わたし自身、次の夜空を見られない場合もあるかもなわけで……こんなこと言ったら、シャドウさんに叱られちゃいますかね。
でも、まあ。
わたしだって、それなりに思うところはあったんです。
だから、本当なら早く眠って体力と魔力を温存しておくべきなのに、甲板へ来てしまったんです。
もしかして、シャドウさんも同じだったりするんでしょうか?
まあ、突っ込んで訊いたりしませんけど。
夜の時間は、静かに流れていきました。
互いに、何を言うでもありません。
わたしは取り止めもなく、いろいろなことを考えていました。
元いた世界のこと、この世界のこと、今までのこと、これからのこと。
皆がどうなるのか、わたしはどうなるのか、シャドウさんはどうなるのか、考えてもどうにもならないことを。
シャドウさんは、どんなことを考えていたんでしょうね。
ふと視線を感じて横を見れば、シャドウさんがこちらを見ています。
「……どうかしました?」
「…………」
やや沈黙があった後に、やっぱり「いや」、としか返ってきません。
そうして目を逸らしてしまう辺り、何か言いたいことがあったのかもしれません。
明日へのアドバイスだとか、これまでの戦い方の指南の総復習だとか、早く寝て回復しておけ云々だとか? ……そんな感じでしょうか。
でもまあ、結局何も言おうとはしませんでしたね。
それって、一応わたしなりにもう準備ができてるだろうと見込んでくださってる、って解釈していいですか?
それとも、……全然違うことだったりするんでしょうか。
いえ。
何と言うか……何か言いたげにしているような、そしてその言葉を押し隠しているような気がしたんです。
まあ、無理には訊きませんけど。
……伝えたくても伝えられないってこと、ありますよね。
それは、わたしだって同じですから。
夜は、いつもと変わらずに静かに佇み続けていました。
「シャドウさん」
「…………?」
言えません。
とてもじゃないですけど、無理です。
そもそも、そうする必要があるんでしょうか。
わたしはシャドウさんの傍にいられるだけで、充分すぎるくらいでしたから。
ただ……事と次第によっては、明日それが崩れるかもしれないわけで。
月の光は相変わらず白く、辺りを照らし続けています。
「月が綺麗ですね」
こちらを見返す目が、微かに細められました。
それはいつもみたいに優しくもありましたけど、同時に他の何かも含んでいるように見えました。
それが何なのか思いつくよりも先に、シャドウさんは言ったんです。
「……それは」
「……?」
「何か意味のある言葉なのか」
「えっ」
吃驚しました。
同時にギクっとしました。
絶対に分からない、伝わらないと分かっていて口にしたのに。
「……何でそう思ったんですか」
「……何故かは分からんが」
そんな気がした。
そう繋げる貴方に、どう言ったものか分かりません。
でも、言い出しっぺはこちらです。
訊きたいですか、と言うべきところだったのかもしれません。
けれど、動揺してしまって、口にしたのは逆の言葉でした。
「意味は……訊かないでくれたら、嬉しいです」
そう言って、私は笑ってみせます。
シャドウさんは少しだけ目を伏せて、そして「……分かった」とだけ返してくれました。
これでいいんです。
今は、これだけで充分。
心のどこかが痛むような、でもあたたかくもあるような、本当に月のきれいな夜でした。
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