月見酒





























宵闇の中。僅かに覗く月から下りる光に照らされながらは1人宿屋の屋根の上で酒を飲んでいた。
そしてその隣には不審な気配を感じ様子を見に来たシャドウが立ち尽くしている。
胡坐をかいて酒瓶片手に黙々と飲み続けるがとても若い女子には見えない――と、いうより親父のようだといった方が早い。


「なあ、突っ立ってないで座ったらどうだ?」


を黙って見下ろしていたシャドウへ声を掛けるが、シャドウは微かに首を横に振るだけであった。
じゃあ飲むか? と酒を示すが、それすらも拒否されてしまった。
「そうか」と少し寂しそうに正面へ向き直ったは再び飲み始める。
彼女の近くには既に飲み終えた酒瓶が2、3本転がっている。飲み過ぎではないかとシャドウは密かに眉を顰めるが、シャドウの言わんとしていることを察知したのかはこれくらいなら大した量じゃないさと軽く笑った。

先ほどまで下では仲間たちがどんちゃん騒ぎを繰り広げていたはずだ。勿論その中にシャドウが加わることはなく、通り掛った際にそこにの姿はなかったと記憶している。
が手にしているのはその騒ぎの残り物。皆が酔い潰れた後にこっそり拝借してきたようだ。
これだけ飲んで酔いやしないかという考えがよぎるが、は至っていつも通りの様子で淡々と飲み続けている。意外と酒に強い性質なのかもしれない。


「酔いはしないさ。でも酒が入るとちょっと戦闘意欲が湧くんだよなー」
「宿が全壊するから止めておけ」


普段から不可思議な言動の多いなので、酔っているのか素面なのか判断するのは正直難しい。
尚もはシャドウの心配をお構いなしにけらけらと笑いながら飲み続けている。
静かに飲んでいるからこそ、普段賑やかなとのギャップが不自然だった。却って厄介なことになりそうだと感じながらも、シャドウはを1人残すことはせずにいた。
それは優しさからくるものではなく単に放っておいたとしてもどっち道自分にも被害が及ぶと容易に想像がついたからだ。ならば被害が最小限で済むようすぐに食い止められるようにしておいた方が得策だ。

手持ちの酒が尽きたはつまらなそうに空の瓶を弄んでいた。
すると、何かを閃いたのか目を輝かせてシャドウへ顔を向けた。


「シャドウ――抱っこ」


本当にこれがなのかと疑うほどの両手を広げてきらきらと甘えた笑顔を向けるにシャドウは硬直した。語尾にハートマークがつきそうな甘えた声を、彼女が出したりするだろうか。
思考の停止したシャドウは暫く固まったままを見つめていたが、


「――あだっ!?」


の頭に掌を縦にして思い切り振り下ろすと、彼女は突然の痛みに悶えた。


「醒めたか?」


は涙目で何もいきなり殴ることはないじゃないかと口を尖らせる。自業自得だろうと溜息をつき、やはり酔っていたかと確信する。
人は酔うと普段と違う一面を見せるというけれど、の場合いつも素直に甘えるということをしない分、このような形で表れたのかもしれない。


「んじゃあ膝枕でいいや」
「もう1発喰らうか?」
「むー。そしたら、してやろうか? 膝枕」


一瞬の沈黙の後、シャドウは盛大に深い深い溜息をつく。「マッシュはしたのにな」とむくれるに底知れぬ不安を感じるのはなぜなのだろうか。
インターセプターが稀に甘えて身体を摺り寄せてくる時の様子と、なぜか映像がダブる。つまりはそういうことかと内心で納得して再びへ視線を戻す。


「……あまり人前で飲み過ぎるなよ」
「えー?」


自分以外の人間の前で今のような姿を見せた場合、何が起きるかわかったものではない。エドガーやセッツァーならば喜んで抱き上げるだろうし、ティナの場合だったらどこまでも暴走しそうで恐ろしい。そんなシャドウの心中を知ってか知らないでか、シャドウからの殴打により今ではすっかり酔いの醒めたは空の瓶をかき集めながら間抜けな声で聞き返した。


だがシャドウは気付いていない。が無防備な姿を晒すのはごく限られた人間の前だけであることを。自分が思っている以上にから信頼を寄せられていることにも、周りからそのことを羨まれていることも、当の本人だけは気付いていないものである。


は知っている。シャドウが人一倍優しいことを。だからこそ何かを悔やみ常に苛まれていることにも気付いている。けれど本人が話さない限りは何も尋ねない。
シャドウも知っている。がいつも賑やかで誰とでもすぐに打ち解けているように見えて、本当は自分自身について全く語らないことを。けれど本人が語らない限りシャドウは何も尋ねない。


互いに詮索し合わない、この距離感が心地好く、がシャドウに信頼を寄せる理由のひとつだと果たして本人たちは認識しているのだろうか。
月夜が照らし出すのは人の心。探り合いなどせずとも心の内は見えてくる。されど見えているものを見えていないとするのも、また人の美徳なのである。











「Eolia」のきあ様、10万打と3周年おめでとうございます。
記念企画ということでちゃっかりとリクエストさせて頂き、更にはうちにお招きしてしまいました。

『 きあ様宅の夢主人公さんがお酒呑んだらどうなるのかなーというのと、それにお付き合いして下さるシャドウさん 』

というリクでしたが、もう! お二人の関係がたまりません……!
うちの夢主では間違っても口に出来ないような事口走ってしまうヒロインさん、素敵……。もっとやって下さい。
我侭なリクにもお応えして下さり感激です……! ご馳走様ですっ。
きあ様本当にありがとうございましたー!






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