食べられそうな木の実をほんの僅かながら、見つけた。
片手に収まる程度だが、無いよりはいいだろう。そう思いながら皆が留まる場所に戻ると、珍しい光景に出くわした。
ホビットの里の庭師とが、どういう経緯があってか、握手を交わしているのだ。
私がこの場を離れたほんの数十分の間に、ホビットと人間とで友好を深めたらしい。
「何かあったのか」、と問うと、から全く想像のつかない答えが返ってきた。
「 『 チーズポテト同盟 』 が、今ここに固く結ばれたところなんです!」
何を言っているのか解らない。
わかりはしないが、は元からそういう所がある。こちらが解らないのを承知で言っているのだ。
黙って木の実の入った革袋を彼女に手渡してやると、中を覗いたは小さく歓声を上げて、そのままサムに袋を託す。
彼は庭師と言うだけあって、植物の類には詳しい。
私自身ある程度の知識はあるが、もっと詳細に食べられるか否かを選別してくれるだろう。
代わりというわけではなかったろうが、サムは焚火の傍の包みを取って寄越した。
中を開ければ、微かに湯気が立ち昇った。中身は、熱を含んだ蒸しじゃがいもがひとつ。
「アラゴルンが通りかかった集落で分けてもらったじゃがです。塩を少し振ってどうぞ」
「ありがたい」
冷えた空気の中、温かい食べ物は単純に嬉しいものだ。
腰を下ろしてそれを口にする間、が先程の話の解説をし始める。
「塩も勿論だけど、ここにチーズが挟まってたら最高だろうなあって独り言してたら、最高ですねってサムがお返事してくれて」
「それで、最高だよねっても言ってくれたもんで」
「それで、めでたく 『 チーズポテト同盟 』 がここに結成されたわけです」
「二人とも、その辺にしといてくれないかい?」、
そう言って頭を振るのは、頬杖をついていたメリーだ。
「どうこう言ったって、ここにチーズは無いんだからさ。折角食べたってのに、おかげでもう腹が空いてきちまった」
「ごめんごめん」
が苦笑いしながら手を振った。
「でもね、もっと言うと個人的におススメなのは、パンの上に砕いたポテトチップスととろけるチーズをのせて、オーブントースターでカリカリのとろとろになるまで焼いたやつかなあ」
「いいねえ、今ここで其れが食べられたらなあ」
「の国には美味しそうな食べ方があるんだね」
傍で聞いていたピピンがうっとりと呟き、フロドが微笑みながら目を細める。
「シャイアに帰った暁には、皆でいつか、それを食べたいね」
「俺が作って振舞いますよ」
小さき人達のそんな会話が為される中で、口を閉じたをふと見れば、ほんのりと嬉しそうな表情をしている。
彼女がこちらを仰ぎ、目が合う。言った。
「ホビットの里の方が、よっぽど美味しいものとか食べ方とか、ありそうですよね」
「……そうかもしれないな」
「皆、美味しいものが好きっていうのは共通ですね」
小さく彼女は笑った。
「根本的なところって、皆同じにできてるのかもしれませんね。……国や世界が違っても」
……そうかもしれないな。
口には出さなかったが、そう、思う。
同時に、そう言葉にする彼女は、改めて近くて遠いような気がした。
……は、こういうものは好まないだろうか。
「、手を」
「?」
疑問符を浮かべながらもそっと手を差し出す彼女に、もう一つ革袋を渡した。
「ほんの少しだが、さっきのとは別に取っておいた木の実だ。確実に食べられる種類のな」
「……もしかして、皆には内緒ですか?」
「そうだ。……好きではないか?」
「ナッツ系、大好きです!」
ありがとうございます、と小声で言いながら思い立ったように、は革袋を持つのとは別の手を差し出した。
「じゃあ、わたしとボロミアさんは 『 ナッツ同盟 』 ですね!」
何がどうすればそうなるのか。
思わないでもないが、彼女は意気揚々といった感じで、その手を差し出したままでいる。
おずおずとこちらも手を出す。私達はよくわからない握手を交わした。
自分の手とは一回りも小さいその手に改めて驚くが、もしそれを言ったならば、は
「ボロミアさんが大きいだけです」とでも言い返してくるだろうか。
そう思いながら、同盟の結束にひとまず気が済んだらしい彼女を見る。
皆に見つからないようにこっそりと一粒の木の実を口に入れるの顔には、穏やかな微笑みが浮かんでいる。
いつか帰り道を見つけるのだとしても、今はそうしていつものように微笑んでいてほしい。
私は、そう思った。
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