エドガーからの口付けと抱擁。手渡された小包。
「気に入ってくれるといいんだが」
以前言っていた、俺への贈り物。
贈り物は贈り主の前で開けることにしている。
見慣れたブルーサテンのリボンを解くと、見覚えのある木箱が現れた。
「オルゴール………、どこで、これを?」
あれから何度か物売りを見かけたが、このオルゴールはもう売れてしまったようだったのに。
「物売りに話を聞いてな、買った者を訪ねてみたんだ。せめて模造品くらいは作れないかと思って、見せてもらいに」
いくら王とはいえ、金に物を言わせて奪い取るようなまねをしないところがエドガーの美徳のひとつといえるだろう。
「ところが、買ったばかりだというのにもう手放す気でいた。なんでも、《とりたてていやな感じではないんだが、ここに置くべきじゃないような気がしてきた》、とか何とか。無償で譲るといわれたんだが、これだけの品だ。元値で買い取らせてもらった」
「そうか………」
ふたを開けると聴きなれた子守唄が流れる。
「もう見られないと思っていた」
「前の持ち主の言っていたことは気になるが、俺はこのオルゴールはあんたのところに来たがってたんだと思っている」
「大事に、する」
今度は、自分から彼に口付けた。


箱の裏にあるぜんまいをいっぱいまで巻いてふたを開ける。
よくある女性用の宝石箱だ。ふたの裏には小さな鏡。本体の半分には仕切りがついていて、もう半分には、指輪用に切り込みの入った台に手触りのいい生地が張られている。
違和感。
本体の大きさの割りに、浅いような気がする。
あまり深いと宝石類が取り辛いからなのか。ならばもう少し浅く作ればいいものを。まさか底板だけ厚いとか?
そこまで考えて、ひらめいた。二重底なのかもしれない。
ひっくり返して裏板をはじくと、空洞があるようだ。
今度はぜんまいを逆に回して外す。それだけでは裏板は外れず、薄身のナイフを差し込んで可能な限り傷をつけないように押し上げる。
小さな軋みとともに板が外れ、折りたたまれた紙束が現れた。
「手紙?」




愛する、あなたへ

初めてあなたを見たとき、私は恋に落ちた。

あなたの声が耳からはなれず、声を聞くたびにあなたの姿を探してしまう。
美しいあなた。
その姿が目の奥に焼きついたようだ。
眠りに落ちるその瞬間まで、あなたのことを考えている。

でも、その声も髪も瞳も、その心も、私のものにはならないことを知っている。
涙があふれてとまらない。

あなたは光の当たるところにいる。

あなたが光なら、私は闇であり影。
この身に流れる闇の血のために、あなたに触れることもできない。
たとえ生まれ変わっても、隣に立つことを許されないだろう。

闇にさした一条の光。
それがあなただった。

この気持ちは、決して伝えられない。

愛している。

だからどうか、いつまでも、笑っていて。





宛名も差出人の名前もない、愛の告白。それが1枚目。
ずいぶんと古いようだが、陽の光に当たってこなかったせいか状態はいい。
2枚目がある。





愛する、あなたへ

初めてあなたを見たとき、私は恋に落ちた。

あなたの声が耳からはなれず、声を聞くたびにあなたの姿を探してしまう。
美しいあなた。
その姿が目の奥に焼きついたよう。
眠りに落ちるその瞬間まで、あなたのことを考えている。

その声も髪も瞳も、その心も、私のものだと知っている。
涙があふれてとまらない。

あなたは闇の中にいる。

わたしが光なら、あなたは闇であり影。
わたしたちの身に流れる血のために、あなたに触れることもできない。
でも、光なくして闇はなく、闇なくして光は存在できない。

私の半身。
それがあなただった。

この気持ちを伝えたい。

愛しているわ。

もう一度会いたい。





明らかに1枚目に対する返事だ。
こちらにも名前がない。
筆跡からすると1枚目は男が書いたもののようだ。
おそらく、返事があることを知らない。
2枚目は女の文字。インクの退色具合からして、1枚目よりもかなり後に書かれたのだろう。
そしてたぶん、二度と会えなかった。
会えたなら、こんな風に宝石箱の二重底の中に隠すようには入れておかないだろう。
でもそれは、単なる想像に過ぎない。
もしかしたら二人は会えたかもしれないし、誰にも見つけてほしくない宝物だったかもしれない。
あるいは単なる創作で、見つけた者に想像させるためだけのものかもしれない。

このオルゴールと手紙にどんな関係があるのかは、いろいろ想像はしても結局のところ真相はわからない。
大事なのは、このオルゴールがエドガーからの贈り物だということだ。
《時には気持ちを言葉で、それ以上に目に見えるもので表したい》
そう言っていた彼からの、愛の。



後日。
部屋を出るエドガーを呼び止める。
「エドガー」
「ん?」
「愛している」
「なっ………」
言い慣れてはいても、言われ慣れてはいないらしい。あまりにびっくりしたようで、しばらく言葉が出てこない。
すぐに落ち着きを取り戻すが、その間、俺は彼を見つめ続ける。
「何があったんだ? ………嬉しいが」
「オルゴールの礼だ。 《時には気持ちを言葉で》 そういったのはお前だろ。ありがとう」
「気に入ってくれたようで何よりだ。そうだ、今度あれに合せてピアノを弾いてくれ」
「ああ」



そう、どんなに想っても、伝えなくては伝わらないのだ。
今も、昔も。
そして明日も。






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