砂漠に日が沈むと、乾いた風がオアシスの匂いを運ぶ。
シャワーを浴びた後、いつもの黒装束ではなく、ゆったりとした前開きのシャツと細身のパンツを身に付けたシャドウは窓辺にしつらえられた長椅子に身をゆだねた。
まだ濡れたままの髪に、砂漠を渡る風が心地良い。
毛先を離れた滴が頬、顎、首筋を伝ってシャツに染みを作る。
シャドウの瞳は軽く閉じられ、普段の彼からは想像のつかない寛いだ様子を見せた。
カラン、とグラスの中の氷が音を立てる。琥珀色の液体は先程から全く減っておらず、グラスはすっかり汗をかいてテーブルを濡らした。
「風邪をひく」
執務を終えて部屋に戻って来た砂漠の若き王エドガーは、着替えもせずにまず、乾いたタオルでシャドウの髪を包み込んだ。
「砂漠の夜は冷える」
エドガーの気配にまぶたを持ち上げたシャドウだったが、再び目を閉じ好きにさせた。
他人に触れられ慣れていないシャドウは少し身じろぎしたが、特に何も言ってこないのでエドガーは気を良くする。
ここには、シャドウとエドガーしかいない。
きっと誰も二人のこんな姿を知らない。
あらかた水気をぬぐったエドガーの手が離れる刹那、シャドウのしなやかな腕が後ろに伸びてエドガーを引き寄せ、その口唇に触れた。
そのままゆっくりと立ち上がり、マントの止め金と立ち襟のボタンを外していく。
なめらかな素肌があらわになる。
より深く口付けようとエドガーが一瞬離れようとすると、シャドウの右親指がやわらかなエドガーの下口唇をなでた。
「おまえが、あたためてくれるんだろう?」
左右で色彩の異なる妖しい瞳の誘惑に、歳若い王が勝てるはずもなかった。
流れる金の髪に触れ首筋にそっと口唇を寄せると、
「シャドウ」
名前を呼ばれ抱きしめられた。
肌で感じる鼓動、体温、甘いささやきと力強い抱擁。
その全てが、今だけは、自分だけのものだ。
離したくない。
こんな独占欲を、自分は知らない。
体中の傷跡ひとつひとつに優しく口付ける。できることならば全て消してしまいたい。
どの傷も古く、よく見なければそうと分からないものも多いが、ただひとつだけ、あの最後の戦いの時の傷だけはまだ塞がったばかりで、触れられると痛むのか、シャドウは微かな声を上げた。
もう決して傷付かせない。
俺にだけ見せる素顔。誰にも渡さない。
「すまない」
最後の傷に羽のようなキスを降らせた。
横たわるシャドウに触れる度に、青いリボンで束ねられたエドガーの毛先がシャドウの肌で遊ぶ。
くすぐったそうにはねる様が面白くて、わざと髪が触れるように動くと、その思惑に気付いたシャドウは身を起こし、ふざける王の頭を引き寄せ深く口付ける。
口唇を甘噛みし、歯列をなぞって舌を誘い出す。口角から顎を伝い滴が流れ落ちると、部屋の明かりが反射して一際シャドウを妖しく彩る。
口内を思うさまなぶり、水音を立てながらも名残惜しそうにどちらからともなく離れると、シャドウの手には一本の青いリボンが絡んでいる。
目の前でひらひらさせ、口の端だけで微かに笑うシャドウのその手に、エドガーは自らの手を重ねた。
砂漠の夜は更ける。
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