疵一つ無いんだな

彼の左手を取り、手首の内側に唇で触れる。
自分に比べ幾分細い腕、贅肉一つ無い引き締まった体躯。
暗殺を生業としている者としては、意外なほどに美しいその手に指を絡める。

下手に傷を作ると、命取りだからな

唯単に、出血や傷が膿むのがもとで死に至るということではなく、その傷が特徴となって正体がばれないとも限らない、そういうことだ。
暗殺者としての顔はあくまでも裏向きで、彼は恐らく普通の、一般人としての顔も持つということなのだろう。

美しい手だ
俺とは大違いだな

……俺の手は、人を殺すことしか知らない……

自嘲気味に、幾分照れたように答える彼。
僅かに長いが整えられた爪、ほっそりとした指、しなやかで美しく、見るからに器用に動きそうだ。
こんな手が、人を殺すのか。
……いや、この手なら、暗殺くらいやってのけるだろう。どんな得物も易々と扱い、躊躇いなどなく、淡々と。
美しいが、冷たい、手だ。
それでも。

……今はもうひとつ、 『 俺を 』 知っているだろう?

そう言うと、彼にしては珍しく軽く目を見開いて、それから唇の端だけで笑った。

……いや
お前を知っているのは、ココだ

俺が彼にしたように、彼は俺の左腕を取り手首の内側に軽く唇を当て、彼の胸にそっと触れさせた。

その、幾分低い体温と確かな鼓動に、自然に笑みが零れてくる。
そして

シャドウ

その名と共に抱き寄せ、深く、口づけた。







● 後書き

いつもタイトルは最後につけますが、今までの少ない創作の中でも今回ほど頭を悩ませたものはないです。
希望としては英語の簡潔なもので、なんとなく内容を感じさせるものでしたが今回はどちらでもなく。
候補はいくらでも挙がりましたが。
いっそのこと逆説的なものに、ということでこのような感じに。

眠るエドガーを見つめるシャドウの心情としては、こんなものではなかろうか。

シャドウさんの手に対するこだわりを表現しきれていない感じがしなくもないのだけれど、個人的には彼の手に対するエドガーの感想が書けたので満足。
「あんな手が人を殺すのか、でもあの手なら、人くらい簡単に殺せそう」
ギャップってやつですか。

シャドウさんは、エンディング後に生きていても光の当たるところを歩みはしないと思う。
表の世界は、ロックやエドガー達が守ればいい。
その陰でシャドウはこっそりと皆を見守りつつ裏の世界で生きていくんだろうと思う。
世界を皆と共に救った思い出があれば、生きていける。



たぶん今のシャドウを見たとしても、あのシャドウだと気付く人はそういないといいなあ、というかそういう設定です。
トレジャーハンターはまず 「あ、新人?」 みたいな感じでスルーしちゃうし、弟はたぶん兄の恋人 (!!) が男ってことで動揺してそれどころじゃないだろうし。
ちびっこ達はそもそもフィガロ行かんでしょう。じいちゃんも。もしかしたらガウは匂いでわかるかもしれないけど。
あとはセリスとティナとセッツァー。
この方々にはうっかりすると気付かれてしまうかもね、みたいな。

うちのシャドウは右と左の瞳の色が違う設定で、皆と居た時のシャドウはカラコン入れてたか何かの理由で今の彼に会っても気付かないのです。黒装束でもなく常に素顔を晒している。そんな感じで。

以上ピアノを弾くシャドウさんでした。






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