「ファイガ三発を、いっぺんに撃っただあ!!?」


ロックの驚きとも呆れともつかない声が、広間に響き渡ったの。
シャドウがを抱えて、皆でファルコンに戻ってきて。それから少ししてからの事だったわ。
私は、残っていた魔力の全部を総動員して、その場でに回復を施したの。痛々しい手が、見る間に再生していったけれど、は目を開けてくれなくて。
すごく心配したんだけれど、シャドウは「眠っているだけだ」って。それを聞いて、息をついたわ。同時に、癒しの力に感謝したの。
……一年前は、この力が怖くて、仕方がなかった。でも今は違うわ。誰かを救うことが出来る力だって、わかったんだもの。
そんな事を思っている間にも、広間での声は続いていたわ。


「それで、その反動で?」
「おそらくは。一度に魔法を三発以上放つなど、聞いたことがない。確かに強力なのだろうが、その分、術者への負担は相当のものになる筈だ。今回はシャドウやティナが直ぐに手当してくれたからこそ利き手を失わずに済んだものの、そうでなかったらどうなっていたか」
「……滅茶苦茶にも程があるだろ、あいつ……」
「…………」


ロックとエドガーが話している間、私、ただ、沈黙したまま下を向いていたの。
私はやシャドウと一緒にいて、全部を見ていたわ。
怪物の攻撃に皆が地面に伏してしまった時の事、敵の次の標的が、近くにいただった事。
それを庇うように、の前に立ち塞がったシャドウに放たれた攻撃、そして、それから――


「ティナ」
「……えっ?」
「大丈夫か? ティナも何処か、具合が?」
「あっ、ううん。私は」


考え事をしていたから、呼びかけられた時は慌てて両手を振ってみせたわ。


「……私は大丈夫だから、心配しないで」
「そうか? ならいいんだけどさ」


そう言って、上階、の眠る部屋の方向を見上げてロックはひとつ息をついたの。
ロックもロックなりに、彼女のことを心配していたんでしょうね。
私も、のことを考えたわ。
――あの時、シャドウに向けられた攻撃を彼女が弾き返してしまうだなんて、私、思ってもみなかった。
たぶん、シャドウだって吃驚したんじゃないかしら。自分の前に、が飛び出してきて。
そうでなければ、きっと敵の攻撃を、彼、まともに受けてしまっていたと思うの。は、それが嫌だったんだと思う。
だからって、あんな……すごい魔法を使うなんて、思ってもみなかったけれど。

「とにかく今は、が目覚めるのを待つしかないな」

そんな言葉に肯いて、広間に集まっていた皆はめいめいに彼女が眠りから覚めるのを待つことになったわ。
私、何回かが休んでいる部屋に向かおうとしたし、実際に部屋の前まで行ったの。
でも、中からは何の音もなくて。一緒にいる筈のシャドウに何か聞けないかとも思ったけれど、結局は、ドアをノックする事が出来なかった。
だから、何度目かの訪問の帰り、飛空艇内の通路を曲がろうとしたところで呼び止められた時は、ハッとしたわ。
振り向いた先には、いつもとまったく変わらないがにこにこして手を振ってて。


! もう大丈夫なの!?」
「うん。寝て起きただけ」


ひらひらと、あの酷い火傷を負っていた手をまた振ってみせてくれたの。それで、ああ、良かったって。
もう一度、私は思ったわ。この魔法の力が役立って、本当に良かった、って。


「ティナがここまで治してくれたんだよね、ありがとう」
「ううん」


私は頭を振ったわ。
私はただ、目の前の人が無事でいてくれたらそれで良かったの。誰にも傷付いて欲しくなかったのよ。


がいつも通り元気でいてくれたら、それでいいの」
「ティナらしいけど、でも、お礼くらいは言わせてね。そのために、一番にティナのところに来たんだから」


そう言って、彼女は改めて頭を下げたの。
そんなこといいのにって思いながら、私、少しだけのことを見ていて。
そうしたら不意に、不思議って心の中で声がしたの。……急に、のことが不思議で仕方ない存在のように感じたのよ。

思えば、私、彼女のこと何も知らないわ。
知っているのは 『 別の世界 』 から来たひとだっていう事くらいだけれど、私には彼女は、この世界にいる他の人達と何も変わらないように思えるもの(それに、私だって幻獣界から来たんだもの。そんな意味では、私とは、一緒だって言えるのかもしれないわ)。
最初はだって、魔法を使うことは出来なかった。
なのに、魔石に触れて、急に魔法が使えるようになって。それに、その習得も驚くような早さなんだもの。私だって、吃驚したわ。
それでも、彼女はその力を怖がる素振りも見せなかったし、それは今も同じに見えたの。
あんな事があって、もしかしたら、手を失っていたかもしれないのに。


は――」
「うん? なに?」


気付いたら、疑問を口にしかけていたわ。
ハッとして、手で唇を押さえたの。……私だって、たくさん悩んで此処まで来たんだもの。
だって、私には見えないところで悩んだり、考えたり、色んな事があって今この場にいるのかもしれない。
だから、軽々しく訊ねていい事ではないって、そう思ったの。
けれど同時に、どうしては、ここまで強くなれたのか知りたいとも思ったわ。
だから、思い切って訊いてみたの。


は、自分の魔法を怖いって思ったこと、ある……?」
「ううん」


ごく自然に、彼女は首を振ったわ。
迷ったり、考えたりする様子も、何もなかった。


「一度も?」
「……だって、魔法のおかげで、シャドウさんとティナを守れたよ?」
「でも、あんな……酷い火傷までして……」
「でも結果的に、こうして治ってるし。それこそ、ティナのその力のおかげで」
「…………」


私、ちょっと、沈黙して。
それからもう少しだけ、続けたわ。


「どうして、はそんなに強くなれたの……?」
「わたし、たぶん、まだそんなに強くないよ。いろんな意味でね。……魔法の力だって、そもそも魔力そのもの自体が、弱いと思う。私は幻獣の血も引いてないし、魔導の力を注入されてもいないし、魔法使いの末裔の村の出でもないもの」


のんびりした口調で話す彼女は、いつものとやっぱり変わらなかった。
そのまま私は、流れるような彼女の言葉を聞いていたの。


「だから、あの時も、ファイガだけじゃ無理だって、倒せないって思って。……でも、あのタイミングで敵を倒せなかったら、シャドウさんも巻き添えにしてしまう、そんなの駄目だって思って。それで気付いたら、あんな事になっちゃって」


小さく、彼女、笑ったわ。
それから、「心配かけてごめんね」、って言って。
私は頭をまた振ったの。
は気付いていないみたいだったから、私言ったわ。の魔力、一年前とは比べ物にならないくらい強くなってるって。
私もよくはわからないけれど……、セリスが前に言ってたじゃない。
はもしかしたら、魔法に対して耐性が全くない分、逆に影響を受けやすいのかもしれない」って。
たくさんの魔石に触れてきて、その魔力をより吸収しているんじゃないかって。
は、そうなのかなって、軽く笑い流していたけど。
そんなだったから、私、には言っておかなくちゃって思ったの。



「うん?」
「……もう、あんなふうに、無茶な魔法は使わないでほしいの」


お願いしたら、彼女、苦笑いって言うのかしら。
そんな表情になって、ふっと息をついたわ。


「……シャドウさんに言われる前に、ティナに先に注意されちゃった」
「シャドウに……?」
「これから、たぶんお説教される予定」


おどけて彼女、そう言ったわ。
皆に目覚めたことを伝え終わったら、シャドウのところに戻らないといけないんですって。


「じゃあ、私はこれ以上、言わないことにするわ。シャドウにしっかりお説教してもらってきてね、
「……ティナも言うようになったね」


私達、お互い、笑い合ったわ。
でも、彼女は言ってくれたの。
「もう、あんな魔法の使い方はしないから安心して。わたしだって、身が持たないのは困るもの」 って。
私は肯いて、そして、最後にもうひとつ訊いたの。


、…………貴方はどうして、そんなふうに臆することなく戦えるの?」
「きっと、ティナと同じ理由だと思う」
「私と……?」
「守りたい人達がいるでしょ? ……わたしも、大切なひとを守りたい」


だから、わたしはもっと強くなるよ。
そう言って、彼女は微笑んで。手を振って階下に降りていったの。皆に目覚めたことを伝えるために。
私は、その場に留まって彼女のことを考えたわ。
大切なひと、にとってのそれが誰なのかくらいは、いくら私でもわかるつもりよ。
そんなふうに誰かのために強くなれるって、すごく素敵なことね。

……私も、のそれとは少し違うかもしれないけれど、たくさんいるわ。守りたいひと達が。
きっと、私のも、のも、どちらも愛、……なんだと思うわ。愛するということ。
それが、あんなきれいな微笑みをつくるのね。
私も、守りたいひと達のことを考えている時、あんなふうに笑えているのかしら。
そうなれていたら嬉しいって、私は思うの。

私も、強くなるわ。
私達の大切なものを、守りたいもの。今ある命も、これから生まれてくる命も、その先の遠い未来の命も。
私に与えられた力が、そのために役立つのなら。そのための力だとしたら――。
だから私は、今日も、戦える。






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title by 不在証明