気付いたら、またわたしは座席に座っていました。
走行音がずっと続いている気がします。目を開ければ、窓の外はやっぱり暗く閉ざされていて。
前回と、ほとんど似た状況。

(また列車に乗ってる夢……?)

わたし、みた夢を比較的よく覚えている方だと思います。
でも……それにしたって、夢の続きをみることなんてまず滅多にありません。
それなのに、なんでまた?


辺りをそっと窺ってみます。
今回は、自分だけがぽつんと一人、という状況ではないようです。
ざわざわとした喧騒があり、それなりの人達が同じように座っていました。

見たところ、ごくごくふつうの空気です。
周囲の小さな会話、ささやき声。
規則正しい車輪の音に、周りの人たちの和やかそうな雰囲気。

向かい合わせの座席、反対側には、女の人が小さな子を伴って座っています。
機嫌良さそうに笑う子がこちらを見て、ひらひらとその小さい手を振ってくれます。
こちらも振り返せば、その子はニコニコの満面の笑み。
女の人が微笑みながら頭を下げるので、わたしもそれに倣います。
様子を見ていた隣の席の老紳士もまた、つられるみたいに笑っていました。

平和な、平穏な夢。
何なら、わたしの世界にも通じるような空気がここにはありました。
もしかしたら前回とは違う、全く別の夢なのかもしれません。
ただ、列車という共通点があるだけで。
わたしは(このまま終わってくれるのかな……)と自分の夢を眺めていました。



空気を切り裂くように、バンと後方の扉が派手に開く音がしました。
(デジャブ……)
口の中で呟くうちに「動くな」という聞き覚えのある低い声が耳に届きます。
わたしは確認するのも何だか億劫で、そのまま片手で片目を押さえました。
周囲が凍りつく中、何やら男の人たちの指示が飛んできて、車両を移れだの、荷物は置いていけだの、そんなセリフが聞こえていましたがどうでもよかったんです。

足音が近付いてきて、ふと、その音が止まります。
押さえてない方の目だけで見れば、あの眼帯さんが――今回は、顔下半分を布で巻いて隠してましたけど――驚いたようにこちらを見ていました。
「え」、と声が漏れ出ます。
顔を隠しているのに、口があんぐり開いているんだろうなあ、と簡単に想像できるのが少し面白かったですね。

「もしかして、この前のおねーさん?」
「……もしかしなくても、そうですけど」

やっぱり、この人たち出てくるんだ。
通路の奥から足早にやってきた相棒さん(こちらも今回は顔を覆い布で隠していました)を見て、思います。
しかも何だか、夢の中の登場人物なのに、わたしのことを覚えているんです。

わたしは内心ため息をつきました。
何なんだろう、この夢。
そう思う間に、周囲の乗客の間で小さくざわりとした空気が一瞬のうちに広がったことには気付いていなかったんです。
チッ、という舌打ちするような音が聞こえました。
間髪を入れず、相棒さんが周囲に指示を飛ばします。

「手を上げたまま、全員向こうの車両へ行くんだ。逆らわなければ命は取らない。……それから、そこの女」
「…………わたしですか?」
「そうだ、お前は残れ。人質だ。仕事が終わるまでの間のな」

終われば解放してやる。
そう言うのを、傍らの眼帯さんがチラッと見て、わたしを見て、再度相棒さんの方を見ます。
え? というのが一目で分かるリアクションでしたが、相棒さんの方は(黙ってろ)とでもいうように視線を返すだけで。
(何だか、今回の夢も面倒そうだなぁ)
ついそう思いながらも、わたしは事態を静観していました。



乗客全員が、別の車両に移されました。
そうして静かになった頃、ようやく眼帯さんが
「なあ相棒」、と声に出します。

「なんでまた、人質なんか? いつもとはやり口が違うじゃんか」
「わたしは構いませんけど……他の乗客の皆さんと一緒に向こうに行ってた方が、お仕事の邪魔にならなかったんじゃ……」

ハテナマークを浮かべていると、相棒さんはため息を隠さないまま目を細めました。

「あのな。……お前たち二人がまるで知り合いかのような会話をしたのを、乗客たちに聞かれたんだぞ」
「うん? ……それがどうしたよ」
「言うほどの会話もしてませんけど……」
「……さっき、客たちの間で空気がざわつき掛けたのに気付かなかったか?」
「……」
「……」
「つまり、この女が俺たちの仲間や内通者と思われた可能性があるってことだ。他の乗客たちと一緒にいれば、この女がどういう扱いを受けるかは分からないな」

淡々とした説明。
それをようやく呑み込みます。
なるほど、そんなつもりは全くなかったけれど、わたしは列車強盗団と何かしら通じていると思われたかもしれない、っていうことらしいです。
「……あーーー」、本当に今になって納得した、といった感じで眼帯さんが言いました。

「まー、確かに言われればそうかもしれねーな」
「迂闊なことをするからだ」

ほとほと呆れた様子の相棒さんは、半目になって眼帯さんを睨みます。
そしてその目が、ふっとこちらに向きました。
何処かで見たような深い緑色だなと夢の中ながら思っていると、
「お前も」と続けます。

「余計なことは喋らない方が懸命だ」
「はあ。……もしまたお仕事の邪魔をしてしまったんでしたら、謝ります」
「……俺たちの邪魔をするつもりはないんだな?」
「ないない、ないです」
「なら、少しの間ここにいろ。すぐに終わる」

口ぶりから、わたしをどうこうしようとする様子は今のところ窺えません。
寧ろ、……わたしが他の乗客さんたちから疑われることを先回って心配してくれた?
(自惚れすぎるかな)と思っていると、傍らの眼帯さんは心得顔でニマニマしています。

「そういうことなら、まあ確かに……一時的にでも俺たちと一緒にいた方が安全っちゃ安全だよなあ」
「えっ、やっぱりそういうことですか? やだ、相棒さんってば優しい……」
「そーなの。コイツ、何だかんだでやさしーっていうか、何てゆーか」
「……うるさい」

相棒さんはぶっきらぼうに言ってズカズカと通路を進み、残された荷物を物色し始めます。
わたしはと言えば、眼帯さんと顔を見合わせて。
ついお互い、ちょっと笑ってしまったんです。

そうしながら、少し不思議に思います。
パッと見、いい人にはとても見えない……そんな印象でした。そして実際、強盗のお兄さんという肩書きです。なのに、そんなに悪どくも見えない笑い方で笑うんです。
それが何だか意外でした。

(もしかしたら、そんなに悪い強盗さんたちじゃないのかもしれない)

夢の中で、わたしはそう思いました。
そうだったらいいんだけどな、の意味も込めてでしたが、まあとにかく。



二人の手際の良さは、目を見張るほどでした。
すぐに終わるという言葉通り、金目のものを次々に回収していきます。
あっという間に巻き上げていくその様は、

「まさしくプロの犯行……」
「プロだかんな!」
「無駄口を叩くな」

わたしが思わずこぼした言葉を拾って得意気に二カッと笑ってみせてくれる眼帯さんに、突っ込む相棒さん。
何だか見ていれば、相性バッチリのコンビです。
(これが強盗さんじゃなかったらなあ)と思わないでもないですが、まあ、夢ですから。

そうこうするうちに、二人とももう十分と判断したんでしょう。
互いに肯き合って、けれどその時、二人が弾かれたように向こうを振り返ります。
複数人の足音が近付いてくるのを察知したようでした。

「来い」

促されて、二人と共に車両の扉を潜ります。
移動しながら、眼帯さんが口にします。

「乗客たちかな。滅多に俺たちに向かってくることなんて、ないんだけどなぁ」
「よっぽど正義感の強い奴か、腕に覚えのある奴でもいたのかもな」

何しろ、今回は女を人質にしてるんだからな。
やや皮肉っぽく聞こえたのは、気のせいでもなかったと思います。
わたしが強盗の仲間と思われている可能性もある反面、実は全く関わりがなくて本当に人質になっている、と考える人達だっているかもしれません。

どんな可能性があるにしろ、……まあ、結局はわたしの夢です。
理由はどうあれ、とりあえず地味にピンチらしいことだけは理解しました。
車両の端っこ、機関室まではすぐでした。そう広くもない空間で立ち止まります。

「さて、どうするかな」
「マズい状況ですか?」
「俺たちだけならとっととトンズラするんだけどな。おねーさんをどうするかなあ。このまま置いてって、それこそ俺たちの仲間だとでも思われてたら」
「……今をやり過ごせればいいんですよね?」
「何をする気だ」

何かに気付いたように言う相棒さんを見て、次いで眼帯さんを見ました。
「えーと」、一拍置いて言います。

「全員、透明にするのでどうですか」
「えっ、もしかして魔法? この前俺に使ったってやつ!?」

前回は、眼帯さんにストップを掛けて動きを止めたんです。
それだというのに、当の掛けられた本人はパッと子供みたいに顔を輝かせて「見たい見たい」とでも言いたげな表情です。
相棒さんの顔からもダメだという意思は感じられなかったので、すぐさまバニシュを使います。
揃って透明化したギリギリのタイミングで、乗客らしい男の人たちが機関室に飛び込んできました。

「いないぞ」
「人質の子は」
「やっぱり仲間だったのか?」
「いや、連れていかれたのかも」
「通ってきた車両の何処かに隠れていやしないか?」

そんな言葉が聞こえてきます。
やっぱり、相棒さんが危惧したように「強盗団の仲間」と思われている節もありそうでしたが、半信半疑といった様子です。
そしてすぐさま、元来た通路を引き返していきました。
また戻ってくるにしても、少しは時間を稼ぐことができたようでした。

「……すっげー! ホントに見えなくなってるじゃん!!」、
眼帯さんは見えない姿のまま、感動したように声を弾ませています。
見えてたら、たぶん目はキラッキラです。
それなりには大人のはずなのに、子供みたいな素直な感動の仕方。その辺はちょっとかわいいなと思わなくもありません。

「おねーさん、本当に俺たちの仲間になんない?」
「えっ」
「おい、気安く勧誘するな」
「だって、魔法使えるおねーさんだぜ? その辺のやつとはワケが違うと思わねーか?」

お互い透明で姿が見えないまま、変な応酬が続きます。
応酬というか、突然の強盗団へのスカウトにはさすがに(ちょっとなー)という気分です。

「んんんんんー、さすがに強盗さんの手助けっていうのはちょっと……」
「んー、そっか。残念」
「……姿を消すくらいなら、俺にもできるだろう」
「そりゃーお前の技もなかなかだけどよ。おねーさんのはマジモンの魔法だろ? 最強の列車強盗団になると思ったんだけどなー」

冗談半分だったようで(当たり前でしょうけど)、眼帯さんはそう気落ちするでもありません。
それはそうと、ここから先をどうするかです。
「おい」、と相棒さんの低い声が掛かりました。

「そろそろ、目は覚めないのか」
「……あ、わたしが夢から離脱すれば問題ないんですよね」
「え? え? なになに、どゆコト?」

眼帯さんがイマイチよく分かっていない感じで言います。
けれどすぐに「あ」、と何かに気付いたようでした。

「そういやこの前、おねーさん急に消えちまったっけな」
「はい。わたしにとっては今って、夢をみてる状態というか、なんというか」

ふわっとした説明をします。
でも、今のところ目覚める様子もありません。
ただ、夢だと分かっているのは確かです。……明晰夢なら、わたしは自分で目覚められる。

「じゃあ目を覚ます前に、元に戻しておきますね」

返事を待つ前に、全員のバニシュを解除します。
二人の姿(もちろんわたし自身も)がはっきりと浮かび上がった時には、わたしは自分のほっぺたをつねっていました。
気をつけて逃げてくださいね。
言葉が最後まで届いたかどうかは、分かりませんでしたけど。





「おはようティナ」
「えっ、、もう朝食の支度終わっちゃったの?」
「終わっちゃった」

早朝、ファルコンのキッチン。
今日の朝ごはん当番はわたしとティナでした。
いつもなら二人で作り始める時間でしたが、ティナが顔を出す頃には全員分の朝食を作り終えていました。

何故って、強制的にほっぺたをつねって起きて、時計を見れば起床するにはまあまあ早い時間でした。
けれど、二度寝すればまたさっきの夢に戻ってしまいそうで。
それで、思い切って起きてしまうことにしたんです。

「とりあえず、ゆっくりお茶でも飲まない?」
「じゃあ、私が淹れるね」

そう言って友人は、温かい紅茶を用意してくれます。
連日のよく分からない夢に付き合わされていたわたしにとって、本当にホッと一息つけるような時間でした。

「美味しい……魔法の力もじんわり回復してる感じがするー」
「……もしかして、昨日の戦いの疲れが残ってるの?」
「ううん。夢の中で魔法使っちゃったから……」

ちょっとだけ消耗しちゃって。
ついそのままを言ってしまって、ティナは不思議そうに疑問符を浮かべていました。






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