5 ブルマ

なるほどね〜、そういうことがあったわけね。
トランクスも戻ってきたことだし、じゃあ、今度の続きは、あたしが話そうかしら。
……ふふ、トランクスとちゃん、それにタピオンの三人が揃って帰ってきた時は、ちょっとだけ吃驚したわよ。
だって、もうすっかり仲良くなっちゃったみたいに見えたんだもの。あたしが思ってたより、ずっと早く打ち解けちゃったみたいね。
そうね、確か……ご飯の後、トランクスがタピオンを自分の部屋に招待して。
デザートのケーキを取りに来てくれたちゃんに、
「どうしてるかしら、トランクス」って訊いたら、
「大変ですよ」っていうの。

「持ってる玩具、全部ぶちまけちゃって。すごいもてなしようですよ」
「もう、舞い上がっちゃって……」
「妬けちゃいますね」、
なんて、ちゃん言ってたかしらね。
「初めてわたしがトランクスくんの部屋を訪ねた時も、いろんな玩具を見せてくれましたけど。あそこまで熱烈だったかなあ」って。

……あら、慌てなくてもいいじゃない、トランクスったら。はいはい、落ち着いて。
とにかく、そんなやり取りをしたワケよ。
「おにいちゃんを泊めるんだ」ってこの子、言ってたから。こっちもそのつもりだったの。
でも、お風呂入ってもらって、もう夜も遅くになって。あたしも休もうと思っていた時に、見ちゃったのよ。
トランクスの部屋の前で、タピオンとちゃんが立ってるのを。
ちゃんに向けて、タピオンが小さく首を振ってるのが見えたから。「泊まるの遠慮してるのかしら」って思って、言ったわ。
「どうしたの」って。
振り返ったちゃんが答えてくれたのよね。

「ブルマさん。勇者さんが、出ていくって……」
「何処行くの?」
「…………」

タピオンは押し黙ったままでね。
でも、答えないんじゃなくて、答えられないんだと思ったの。
ワザとだんまりを決め込んでる感じじゃなかったし、それに、ほら。
トランクスやちゃんと一緒に家に上がった時なんて、すごく礼儀正しかったんだもの。
答えを持っていないだけなんだって、思ったわ。
(オルゴールから出てきた直後は、「復活させてやったのにお礼も言えない子なんて!」って思ったけど、それは撤回。ちゃあんと、理由があったんだものね。まあ、その話は追々)
それに、千年前の別の星の勇者様でしょう? 何処行く当てもないだろうからと思って言ったわ。

「貴方さえよかったら、ずっとうちに居ていいのよ」
「…………」
「遠慮なんかしないで、トランクスも大喜びなんだから!」
「……そうはいかないんです」
「何故?」

単純な疑問だったわ。
どうして人を遠ざけようとしていたのか、そして今も尚そうしようとするのは、どうしてなのかしら。
ちゃんが、静かに口添えるみたいに言ってくれたわ。

「あの……、トランクスくんのお母さんは、この時代のこの星屈指の科学者です。きっと力になってくれるはずです」って。

……ふふ、おだてたって何も出ないけど、何か理由があるなら、助けたいとは思ったのよ?
あたしもちゃんも、答えを待ったわ。
そうして、やっと教えてくれたのよね。
視線を落として、何処か遠くを見るようなタピオンの目は、何を見ていたのかしら。
ようやく聞き出せたそれは、聞き慣れない言葉でしかなかったわ。

「……俺の身体の中には、幻魔人が封印されているんです」




もう、時刻は深夜だったわ。
それでも、立ち話で済む感じじゃなかったから、場所をリビングに移して、ちゃんと一緒に熱いお茶を淹れたわ。
だって、ちゃんと説明してくれないと、何が何だかわからないもの。

「一体何なの、幻魔人って」

まずはそこから訊いたわ。
ちゃんもその辺は覚えてなかったみたいで、聞く気満々、真剣そのものだったわね。
タピオンも話してくれる気になったみたいで、あたしたち二人へ静かに語ってくれたの。
――タピオンの故郷の星、コナッツ星のこと。何処かから流れてきた魔導師たちのこと。
――コナッツ星の悪い気を吸い取っていた魔神像の霊体のこと。それに魔導師たちが邪悪なエネルギーを注いで生まれたっていう幻魔人ヒルデガーンのこと。
そしてそいつのせいで、コナッツ星が滅ぼされかけたっていうこと……。

「その魔導師たちは、すごい魔力を持っていたのね」
「はい。ホイもその一人だったんです」
「ホイ?」
「……俺を復活させた、あの老人です」
「あ、さっき、あの工場跡で襲い掛かってきた……!」
「あのじいさんに、まんまと騙されたってワケね……」

そこまで聞いて、ムカムカしてきたわよ。
あたしたちを利用してたってのもそうだけど、易々と騙された自分に対してもね。今言ったって、しょうがないけど。
それに、そう。今気になるのは、

「でも……、どうして幻魔人が、あんたの身体の中に?」
「それは、魔神様をコントロールする伝説の剣と笛があったからです」

それだけだと、答えになってるのかどうかわからない答えだったわね。
でも、ふとタピオンの足元を見たの。
ずっと持ち歩いていた彼の剣がそこにあって、もしかして、って。

「もしかして、それのこと?」
「ええ」

言って、タピオンは鞘からそれを少しだけ抜いてみせてくれたわ。
「神様から与えられていたものです」って。
……あたし、剣ってよくわからないけど、どっかで似たのを見た気がするのよね。まあでも、きっと気のせいよね。
何て言ったって、勇者の剣だもの。その辺にあるものじゃないわよね。
……脱線したわ、ええと、そうそう、幻魔人よ。

「笛で幻魔人のパワーを抑えている間に、神に仕えていた神官が、この剣で幻魔人の身体を上半身と下半身に両断してしまったのです」

笛って、あんたが復活した時に吹いてたあのオカリナのことよね。いつも腰に下げてた……。
それにしたって、一刀両断しても倒せなかったっていうんだから、とんでもない化け物よね。
そこで、半分になった身体を「倒す」んじゃなく、「封印」することにしたっていうけど、生易しいことじゃなかったのは想像できるわ。

「そして、俺の身体にヒルデガーンの上半身を、弟の身体に下半身を封印したんです」

あたし、ここで初めて弟さんがいるって知ったわ。
兄弟二人で力を合わせて、故郷を守ったのね。
そうしてコナッツ星に平和が訪れて、タピオンと弟さんは勇者とよばれるようになったっていうけど。
でも、まだ疑問は残ったわ。例えば、

「でもあんたは、オルゴールの中にいたじゃない。それはどうして?」
「……魔導師たちが、幻魔人を奪い返そうとして、俺たちを狙い始めたのです。それで……」

辛そうに目を閉じてタピオンは続けたわね。
永遠に幻魔人を封じ込めるため、あのオルゴールの中へ封印してもらったって。
ここで初めて、ちゃんが控えめに手を挙げたの。

「あの……、直接ヒルデガーンをオルゴールに封印するわけにはいかなかった、ってことですか?」
「あまりに幻魔人の力が強すぎて、すぐに封印が破られる恐れがあったんです。封じる意志を持つ媒体が必要でした」

それがタピオンたち兄弟自身だっていうんなら、あまりにあんまりだわ。それに……。

「でも、二人が近くにいると、上半身と下半身が合体しようとして、共鳴し合うんです。二度と幻魔人を復活させないために、俺たちは……ポッドでそれぞれ別の銀河に流されました」

……やっぱり、あんまりだわ。
兄弟なのに、一緒にいることも許されないなんて。
それどころか、そうまでしたっていうのにあたしたちは、あんたを復活させてしまったのよね。

「しかし、あのホイが、全宇宙を我がものにしようと、二つのオルゴールを探し出してしまった!」

とんでもない執念よね、全く。
思ったけど、ふと一つ気になったことがあったわ。
それは前の晩に、街に現れたっていう化け物のこと。
悟飯くん達(グレートサイヤマン一号と二号って言った方が、いいのかしらね?)がどうにかしに行ってくれたんだけど、帰ってきた二人から聞いた話に引っかかるところがあったのを、思い出したの。
不思議な姿の、「足だけのモンスター」だったって、そんなふうに言ってたわ。
それっていうのは、もしかして。

「弟さんは……?」
「……たぶん、もう殺されているでしょう……」
「ホイのやつ、許せないわ!」

もしその足だけのモンスターが、幻魔人の下半身だとしたら。
それって、弟さんが守っていた封印までをも解いてしまったってことでしょう? あたし、相当アタマに来ちゃってさ。
でもその時になって、気が付いちゃったの。ちゃんがなんとなく青い顔してるのにね。
そのことを聞こうとするより先に、
「その……」って、ちゃん、タピオンにおずおずと訊ねてたわ。

「その弟さんって、勇者さんをそのまま子供にしたみたいにそっくりな、トランクスくんくらいの年頃の……ピンク色の髪の子ですか……?」
「!」

タピオンったら、息を呑んでちゃんを凝視しちゃって。無理もないけど。
……ちゃんは、弟さんのことも、うっすらと覚えていたのね。
どうしてそれを、って言いかけたタピオンには、あたしから説明したわ。ちゃんがこの世界のこと、ある程度知ってるんだっていうのを。
信じがたいことだったでしょうけど、それはあたしたちだってお互い様よね。千年前のこととか、幻魔人のこととかさ。
まあ、多少次元は違うけど。
……それでさ。
「弟が……」、少しの間があった後、タピオン、こう言ったわ。

「……弟が……、どうなったのかは、知っていますか」
「…………」

一拍の間の後、ちゃんはすぐに首を振ったのよね。

「あの……、ごめんなさい、そこまでは……」
「そう……ですか」

申し訳なさそうに言うちゃんは、まだ心なしか青い顔に見えてね。
ちょっと思うところはあったけど、なんとなく話題を逸らした方がよさそうな気がして。
丁度湧いた疑問を口にしてみたのよ。
「ねえ、そうすると……」って。続けたわ。

「ホイがその下半身を取り返してしまったなら、いつかあんたの中の上半身と合体しちゃうってこと?」
「そうはさせません」、
毅然とタピオンは言ったのよね。

「俺さえ上半身を封印しておけば、ヒルデガーンは完全な姿には復活できません」

ただ、ってぽつりと漏らしてたわ。
それも長くは持たないかもしれないって。
……封じる意志があっての封印、だものね。あんたはその身に幻魔人を宿しているから、眠ることができなかったのよね。
眠ってしまえば、封印が解けて、その上半身が出てきてしまうっていうんだもの。
そこまで聞いて、あたしもちゃんもぎょっとしたのよ。

「じゃああんた、あれから何日も寝てないの……!?」
「え、ええ……」

ええ、じゃないわよ、全く水くさいんだから!
それならそうと、早く言ってくれれば良かったのにさ!
思わず立ち上がって言ったわ。
「よし! あたしに任せなさい!」って。

「あのオルゴールと同じものを作って、力をコントロールすればいいんでしょ?」
「そ……そんなこと、できるんですか!?」
「壊れたオルゴール、まだ捨ててないから、できると思うわ」

そうすれば、あんたは安心して眠れるってことだものね。
それに興味あったから、あのオルゴールはある程度、解析させてもらってたのよ。
感極まったみたいに、タピオンたら立ち上がって言ったわ。

「作ってください! 是非、お願いします!」
「わかったわ、それまで頑張ってね。それと」、
あたし、ちゃんの方を見て言ったのよ。

ちゃんにもお礼言っときなさい。あの壊れたオルゴール、全部拾ってくれたのはこの子なんだから」
「え? あの、ブルマさん、それはたまたまであって、その……」

「わたしがいなくても物語は進みますからそれは」とか言いかけてたけど。
……ふふ、座ったままだったちゃんの前に跪いて、その手を取るタピオンは正しく勇者様よねえ。絵になってたわあ。
ちゃんの方はといえば、すっかり面食らったみたいな顔のままで固まっちゃってたけど。
お礼言われてたのに、もしかして何も覚えてないんじゃない?
……あらあら、ごめんなさい。からかい過ぎちゃったかしら?
でもねえ、いつもトランクスのいいお姉さんしてるちゃんだから。あの時の反応、ちょっと新鮮だったのよね〜。うふふ。
あら、これ以上あたしが言うと、余計なことまで言っちゃいそうね。
じゃあ、そろそろバトンタッチしようかしら。

……そうね。そろそろ、あんたが話してもいい頃なんじゃない?
今回の話はトランクスとあんたが主人公みたいなものだっていうじゃない。
じゃあ、あとはよろしくね、コナッツ星の勇者様!






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