(序) 2 トランクス
おねえちゃんが落ちてきたのは、本当にいきなりだったんだ。
ママがタイムマシンを作ってるっていうのは、結構前から知ってたよ。
テレビのアニメなんかで見るみたいな、あんなチャチなやつじゃない。
本当の正真正銘、ホンモノってやつだよ。ママなら、絶対完成させるに決まってるじゃん。
そう思って、時々覗きに行ってたんだ。あの日だってそうさ。
オレにはもう完成してるようにしか見えなかった。
でもママは、
「まだ肝心なところが残ってるの」って、そんなふうに言ってたっけ。
ラボにアラームが鳴り始めて、おねえちゃんが落ちてくるまで一分もなかったんじゃないかな。
オレもママもビックリしたけど、おねえちゃんの方こそポカンとしてたっけ。
大分経ってから、おねえちゃんがこんなふうに言うのが聞こえたけど。
「……どう見ても 『 ドラゴンボール 』 のブルマさんとトランクスくんがいるようにしか見えない……」
「夢みてるのかなあ」ってほっぺた抓ってたけど、「覚めない」ってやってたよね。
オレはっていうと、その時は(何してるんだろう、このひと)って思ってた、ってのが正直なとこ。
……だって、夢かどうか確かめるのに本当にほっぺた抓る人、あんまり見たことなかったんだもん。
どうしてオレやママの名前を知ってるのかとか、そんな疑問は後からやっと沸いてきたんだ。
それより先に、ママの方がおねえちゃんに訊ねてたけどね。
「……あなた、ドラゴンボールのこと、知ってるの?」
「はい、知ってます」
落ちてきたままだった体勢から、やっと起き上がったおねえちゃんがママに答えるのをオレも聞いてた。
すぐには、その答えの意味があんまりよく理解できなかったけど。
「だって、とっても有名ですから!」
「……じゃあ、あなたにとってここは、物語の世界の中ってこと?」
「わたしから見ると、そうなるんですけど……」
ラボから部屋を移って、とりあえずいろいろと話を聞いたんだ。
今までいろんなことを見聞きしてきたはずのママやおじいちゃん達も、すごくビックリしてた。
……そりゃあそうだよね。だってそれって、
「それってさあ、つまりおねえちゃんはテレビを観てる人で、オレ達はアニメの中の人達ってこと?」
「そうなっちゃうけど……気を悪くしないでね?」
「へえーっ、じゃあ、オレ達がこれから先どうなるとか、そんなことも知ってるの!?」
「トランクス、ちょっと落ち着きなさい」
ママがそんなふうに言うけど、もし本当ならすごいじゃないか、落ち着いてなんていられない。
でも、その反面、本当に本当なのかな、っていうふうにも思うんだ。
オレにだって今まで色んな出来事があったけど、こんなのは初めてのことだもんね。
でももし本当なら、例えば、オレの知らないパパやママの秘密とか、これからの未来のこととか、このおねえちゃんは知ってるってことになるだろ?
「ねえねえ、じゃあ何か証拠を見せてよ!」
「証拠? それって例えば……」
「うーーーん、そうだなあ。……じゃあさ、オレが活躍するシーンで、おねえちゃんが一番カッコいいって思ったの、どこ?」
「フリーザを一刀両断するところ」
「誰それ」
「あ、今のは未来から来た方のトランクスくんだから、駄目かな」
「あら、駄目なんかじゃないわ。よく知ってるじゃない!」
オレにはよくわからないことだったけど、ママは納得したみたい。でも、オレはそうじゃなかったから、続けて訊いたんだ。
「じゃあ、パパの技で一番カッコいいと思うのは?」
「あ、わたしはギャリック砲が好きです!」
初期しか使ってない技だから、トランクスくんは知らないかもだけど。
おねえちゃんはそう言うけど、オレもママも見ちゃったんだ。
今まで部屋の奥の方で、何も関心がないみたいにしながらコーヒー飲んでたパパの肩がぴくっと跳ねたのをさ。
それで、オレも納得したんだ。
その後はママの方から色んな質問(質問っていうより、クイズみたいになってたけどね)をしていった。
おねえちゃんは簡単に答えていったよ。半分くらいは、オレにはわからないことばっかりだったけど、それでも、本当にすごいことだよね。
本当におねえちゃんは、別の世界から来たひとなんだ。
「でも」、質問が落ち着いたときに、おねえちゃんはそう切り出したんだ。
「どうしてわたし、ここに落ちてきちゃったんでしょう」
わたしは直前まで、自分の世界でふつうに生活していたはずなんですけれど。
そんなふうに言うおねえちゃんに、ママはちょっとだけ難しい顔をしたんだ。
「それなんだけどね。……ごめんなさい、タイムマシンのエネルギーが過剰に溜まってしまったせいで、次元をちょっと歪ませちゃったみたいなのよね」
「ママ、それって」
「おそらくだけど、その時に開けてしまった穴が、丁度ちゃんのいた世界に繋がってしまったと思うの」
「あらら」
「……おねえちゃん、よくそんな軽い反応できるね」
「ああ、……それは」
何ともいえない顔で、おねえちゃんは続けて言ったよね。
「漫画とかアニメとか創作モノでは、まあ、そこそこよくあることかなあって」。
オレの隣で座って聞いてたおじいちゃんが、「なかなか興味深い現象だねえ」って肯いて、続けて訊いたんだ。
「それじゃあ、もう一度同じ現象を起こすこともできそうなのかい?」
「ううん。直前にエラー表示を見たんだけど、見たこともない数値を示していたの。あの次元を表す数値を今のあたしが解明するには、あまりに時間が掛かりすぎるわ」
「……じゃあ、おねえちゃんは帰れないの?」
オレ、言ってからしまったって思ったんだ。
おねえちゃんが元の場所に帰れないかもしれないのに、あんなふうに言っちゃって。
でも、そっとおねえちゃんの方を見たら、おねえちゃんは平気そうな顔をしてた。
そして言ったんだ、
「じゃあ、ドラゴンボールを揃えて、神龍に帰してもらいます」、って。
そして、それから一年が経ったんだ。
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