(序) 3
一年、経ってしまいましたね。
落ちた先がカプセルコーポレーションさんで、助かりました。そうでなかったらどうなっていたか、わかりませんよね。
ドラゴンボールも、ようやく三つが集まったところです。
……一年前は、丁度、ドラゴンボールを使って願いを叶えた後だったとか。
『 魔人ブウの記憶を、人々の間から消す 』 ……でしたっけ。
つまりわたしは、ブウ編直後の世界に落っこちてきてしまった、というわけですね。
そうなると、わたしが知るこの世界の知識は、もうほとんどが過去のものです。
時間軸的には、今は物語の終盤ですから。
原作で描かれているのは、あとはもう何年も先、未来でのほんの一幕。それで最終回なんです。
だから、わたしの知識が皆さんの役に立つことは、きっとほとんどないでしょうね。
ドラゴンボールを使えば、おそらく、神龍が無事にわたしを帰してくれると思います。
ボールが復活するまでの一年の間は、本当にあっという間でしたよ。
いろんな人達にも会えましたしね。
トランクスくんも仲良くしてくれましたから、ちょっと、帰るのが寂しいですね。わたしとしては。
でも、まだ帰るのはあと少し先になりそうです。
ボールをあと四つ集めないといけませんし。
それに、そう! わたし、舞空術を使えるようになるの、夢だったんですよ!
だから、帰るまでにトランクスくんに教わって、しっかりマスターしてから帰りたいんです!
ボールは、時々皆さんがお手隙の時に一緒に探して頂いてますけど、まだゆっくりでいいんです。お世話になってるブルマさんには、申し訳ないですけど……。
本当に、最近になってようやくフラフラながら、浮かべるようになってきたんです。
もっと完璧に飛べるようになるまであと少しだって、この間遊びにきた悟飯くんに言われましたよ。
でも、本当にこの一年は、すごく楽しかったです!
原作通りなら、もう大きな事件は何事もなく、この世界は最終回の描かれる未来まで続き、そしてその先もずっと続いていくのだと思います。
流石にわたしも、その先のことはわかりませんけれど……。
わたしはそう信じていました。
だからその日、ブルマさんの手伝いでお菓子作りをしている時、ふと聞こえてきたテレビの違和感に、然程大きく関心を引かれることもなかったんです。
「――の、……ルゴールを、誰か……!!」
「誰か! この爺さんをつまみ出せ!」
「頼む! ほんの少しの時間でいいんじゃ!」
ニュースをやっていたはずの番組が急に騒がしくなり、わたしもブルマさんも思わずテレビに目をやりましたよね。
見れば、小柄なおじいさんがニュース番組のスタッフに取り押さえられようとしている場面です。
どう見ても、生放送への乱入としか思えないその状況。
「人造人間編のお話の辺りで、セルもこんなことしてましたよね」
「あれは、もっと酷かったわよ」
ブルマさんとそんなやり取りをする間にも、テレビの中ではおじいさんが何かを喚き、それを全力で押し止めようとする番組スタッフとの攻防が繰り広げられています。
伸びてきた腕をかいくぐったおじいさんが画面に大写しになり、これでもかという大声で捲し立てました。
「誰かこのオルゴールを鳴らしてくれ! 頼む、この中には勇者が封印されているんじゃ!!」
「勇者ああ?」
丁度、寝ぼけ眼をこすりながらトランクスくんがキッチンに入ってきます。
夕べは、少し寝るのが遅くなってしまったみたいで、それでこの時はお寝坊さんだったんですよね。
聞きつけた単語を眠そうに口にしながら、ふわわっと大欠伸してましたっけ。
「トランクス、今何時だと思ってるの?」
「だって、目覚まし時計が起こしてくれなかったんだもん」
「あれ? わたしが起こしに行った時は、『 あと五分 』 って言ってたよ?」
「もう、トランクス、いいから顔を洗ってきなさい」
そんないつもと同じ日常のやり取りの中でふと見れば、テレビはようやく騒ぎが落ち着――
「オルゴールを鳴らすことができれば勇者が復活する! 今こそこの封印を解かねば、地球は滅びてしまうんじゃ!!」
――いては全くおらず、ぎゃあぎゃあと喚き散らしているそのおじいさんは腕に何か古びた箱を抱えたままで、ようやくズルズルと誰かに引きずられての退場を果たしたのでした。
「……何だったんでしょう、今の」
「さあ?」
わたし達はちょっと首を傾げた程度で、すぐに、そんなことがあったという事実さえ忘れようとしていました。
それこそ、これから起こる出来事の前兆だったのに、わたしはすぐには、それを知ることもありませんでした。
知っていたのに、忘れていたんです。わたしは、その勇者のことを。
そしてその人が、これからわたし達に大きく関わってくるだなんて、この時は思ってもみませんでした。
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