道は二手に分かれていた。
「セリス! どっちに行くの!?」
「判らない!!」
わたしは、シャドウさんと共に急停止した。
先にここに着いていたらしいセリスも、どちらに行けばいいか判断しかねていたようだ。
立ち往生した、そこに。
「何立ち止まってんだ!」
「! セッツァーさん!?」
後方から仲間が一人、追いついてきた。
彼はすぐに状況を見て取って、わたし達の進めない理由を理解したようだった。
「は。こういう時はコレに限るぜ」
彼は懐から取り出したコインを弾いた。
キィン、と高い音を響かせて、それは壁に当たってはね返る。
カラララ、と回転して転がった先は、左の道。
「こっちね」
「まちな!」
セリスが向かおうとしたのを、セッツァーさんの声が制止した。
瞬間、左手の道の先、その奥の扉が爆発を起こしてわたし達は煙をかぶった。
「……今考えていることの、逆。それが正解だと、よく親友が言っていた」
セッツァーさんは腕組みしたその上で、ふっと笑った。
彼は時々、さりげなく難しいことを言う。
わたしは感心しようとして、それより早くシャドウさんに腕を引っ張られた。
気がついたら右手の奥の扉が開かれていて、わたしとシャドウさんはそこをくぐっていた。
彼の素早さにはいつも感服しているが、それにしても此れは早すぎやしないだろうか。
そんな事を思いながらチラと一瞬だけ見た後ろ、セッツァーさんがわたしを見て、小さく苦笑しているのが判った。
……ああ、そう。
そういえば、シャドウさんの次に出会ったのは、このセッツァーさんだった。
「……此処が」
わたしはシャドウさんの方を見て、言いました。
「ええと、あるぶるぐ、でしたか。……その街、なんですね?」
訊いたつもりだったのに、シャドウさんは反応がありませんでした。
聞こえなかったのかとも思いましたが、なんか、もう一度繰り返すのもなんだったので、わたしは言いませんでした。
けれど、ワンテンポ遅れて言ってくれましたね。
「……此処ならいろいろ施設もある。さっきのような妙な発言さえしなければ、なんとかなるだろう。……じゃあな」
「え、あ、あの」
わたしがお礼も言わないうちに、シャドウさんはさっさと何処かに行ってしまいました。
インターセプターはそれについて行き、一回わたしに向き直ると一つ声をあげてくれました。
別れを告げてくれているようでしたから、わたしはそれに手を振りましたけれど。
気分が少し、沈みました。
別に置いていかれたとか、そんなふうに思っていたんじゃないですよ?(まあほんの少しそう思わないでもなかったですが)
本音を言えば、シャドウさんのことを「いい人かもしれない」と思い始めていた反面、どこかでやはり、警戒を解くことは出来ていなかったのです。
けれどちゃんと、本当に街まで連れてきてくれて。なのに、お礼も言っていないのです。
その事が少しばかり、自分の中にしこりを残しました。
後を追うには、シャドウさんの足が早すぎました。もう姿は見えませんでした。
仕方がないので心の内で、ちゃんと此処まで連れてきてくれたことに感謝をしました。
それから、気持ちを切り替えることにしました。
取り残されて心細い気分にもなりましたが、これからどうするかと考えることにしたんです。
その時、空を何かが切っていきました。
かの有名な、空飛ぶギャンブル場──飛空艇、ブラックジャック号です。
けれどその時のわたしには、有名無名も関係ありません。
その姿形にポカンとしました。
わたしのいた所で、そんなタイプの乗り物は見たことがありませんでしたから。
周りにいた街の人たちは、ちょっとそれを見やったり、或いは見もせずに、そのまま自分のことに戻っていきました。
此処の人たちには見慣れているのか、それとも興味が無いのか、その時のわたしはとにかくそんなふうに考えました。
見れば、その乗り物は、街を通り過ぎたところで高度を落とし始めていました。
この近くに着陸するんだなと思いました。
わたしは折角シャドウさんに此処まで連れてきてもらったのですが、何だかその乗り物に興味が湧いたので、降りたと思われるところまで行ってみることにしました。
幸い、林の中で遭ったような獣も、この周辺には見当たりませんでした。
「……わあ。すごいなあ」
思わず言ってしまうほど、その乗り物はなかなかに立派なものでした。
なにしろわたしは、飛空艇というものを見るのは初めてでしたから、そして初めて見たそれが豪華絢爛 ・ブラックジャック号でしたから、呆けたみたいになってしまってもしょうがないでしょう?
わたしは独り、遠慮もせずにその乗り物を見物しました。
船体が黒塗りでしたので、わたしはなんとなく、さっき別れたばかりのシャドウさんを連想していました。そこに。
「なーに見てんだ、んー?」
その乗り物、わたしの見上げていた丁度そこ、その位置からひょっこりと顔を出したのは、一人の若い男の人でした。
「そんなに俺のブラックジャックが珍しいか、んん?」
「ええ、それはもう」
わたしは相手に合わせました。
「これ、貴方のですか? ……いいな、欲しいなあ。カッコいいですね、乗ってみたいなあ」
軽口がきけたのは、相手の空気のせいでした。
向こうはわたしが結構な時間、飛空艇を見ていたのに気がついて出てきたみたいでした。
カッコいいと言ったのが良かったらしく、何だか嬉しそうな表情をしました。彼、見た目より結構、素直ですよね。
「そうか。コイツを気に入ってくれたか。目が高いぜえ嬢さんよ」
「……嬢さんってガラでもないですけれどね」
言ったら、向こうはそれにウケてくれたのか、笑い顔になりました。
よくよく見ると傷だらけの顔をしていましたが、警戒心はさほど沸き起こりませんでした。
気持ちのよい笑顔をしていましたから、たぶんこの人もいい人なんだろうと思いました。
「しかし生憎だが、今は人待ち中でな。しばらくコイツを大空に飛ばすのはお預けなんだ」
「そうなんですか。ちょっと残念だなあ」
そこまで言ってから、あ、と思い出しました。自分の状況を。
「あのう、すみませんけど。……この辺りの地理には、お詳しいんですか?」
「俺は飛空艇乗りだからな。世界を飛んでる。地理なら割と自信あるが」
「よかった! ……あの、実は、道に迷ってしまいまして」
「なんだ、迷子かよ」
「なんだとは失礼な」
「実際そうだろうが」
「…………」
わたしはむくれてみせましたが、彼はそんなわたしを見てまた笑いました。
「まあ、今は丁度暇してたところだしな。コイツのことも気に入ってくれたようだし」
コンコン、と拳で軽く船体を叩くと、彼──セッツァーさんは、わたしを中に入れてくれました。
そうですね。それがきっかけですかね、わたしが皆と一緒に行動するようになったのは。
わたしはセッツァーさんに日本のことを聞いてみました。
やはり、知らないと言われました。
それにしばらくして外から戻ってきた仲間──ロックやエドガーさん達でした──、にもいろいろ訊いたり訊かれたりをしてみたんですが、まったく世界が違っているのを嫌でも実感せざるを得ませんでした。
でも困ってしまったわたしに対して、皆さん良くしてくれましたよ。
ロックは何の根拠もないにも拘らず「心配しなくていいんだ」と言ってくれました。
セッツァーさんも「少しの間なら此処にいても構わない」と寛大でした。
……ああ。
勿論エドガーさんもわたしを励ましてくれました。
何だか言葉の端々に薄ら寒いセリフが混じっているのが気になりましたが…………。
え。どんな、って?
……あんまり大きな声で言いたくないんですけど……。
じゃあ、耳貸してください、言いますから。
…………。
あ、シャドウさん、何ですか風魔手裏剣なんて持って。
いやあのソレ今そこからそっちに投げたらエドガーさんの後頭部に直撃しますから止めましょうよ、ね? 今は話の途中なんですから。やるなら話の後でやって下さい。
……ええと、どこまで話しましたか。
ああ、そうですね。皆さんと一緒に行動するようになりました、っていうところでした。
ただ、その時は何か急場だったらしく、しばらくわたしはブラックジャックの中で居候状態でした。
後になって知りましたが、丁度帝国とドンパチやっているところだったそうですね。
わたしがセッツァーさんに会ったのは、ロック達がその帝国の魔導研究所に忍び込んだ頃だったそうです。
飛空艇の中に 『 仲間 』 が勢ぞろいしたとき、結構な人数でしたから、しばらくわたしはそこに残ってお手伝いみたいなことをしていました。
もともとブラックジャックの中には船のメンテや道具の売買に詳しい人たちはいましたけれど、こと家事関係については、出来る人がほとんどいませんでしたしね。
わたしも、何処にも行くあてがありませんでしたから。
皆とも仲良くなってしばらくした頃、魔石についてティナが教えてくれて、わたしも魔法が使えるようになりました。
何故か、魔石に触れただけで、その魔石の魔法をすぐ覚えることが出来ました。
そのことに教えてくれたティナはおろか、みんなというみんなが驚いていました。
何でも、魔法を覚えるのにはかなりの実戦を積まないといけないのだそうです。
よくは判りませんが、もしかしたら、意外に魔法の才能あったんでしょうかね、わたし。
けれど、そんな事はどうでもよかったんです。
ただ、わたしもこれから戦いの面で役に立てるかもしれないとワクワクしました。
それまでハッキリ言って、役立たずでしたからね。
わたしも何か、役に立てればと思ったんです。
そんなこんなで、わたしも一行のパーティに加えてもらえるようになりましたから、それまでと違って行動範囲は急に広がりました。
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