部屋の中に、静かな時間が満ちている。
そっと頬に触れていた手を引っ込めたわたしは、少しの間ボロミアさんを見つめていた。
心の奥底からの安堵。そして幸福感。
それが、自分の中に溢れてくるのを感じる。
生きているこの人が、目の前にいる。
ボロミアさんの閉じられたままの目蓋を見つめながら、様子を窺う。
呼吸はしている。見たところ何処にも傷一つなく、本当にただ眠っているだけのようだ。
目が開くだろうかと思うけれど、今のところそんな気配はない。
それでも――とにかく、生きている。
わたしは深く深く息を吐いた。吐息の音が辺りに響いて、すぐに消えた。


少し前の場面――ボロミアさんが命を落とす、それ以前のいつかに戻った状態。
そこから、この人を連れてきてしまった。
わたしは自分のしたことを振り返る。
それというのはつまり、実のところどうなのだろう。
自分がどういう結末を迎えたのか、彼は覚えているのだろうか。それとも、何も覚えていないのだろうか。
わたし自身がモリアで場面を遡った時は、ちゃんとそれを覚えていた。けれど、ボロミアさんもそうとは限らない。

そしてわたしには、もう一つ別に、気になることがある。
今はこうして自分達はこちらにいる。けれど、再び夜になって眠りに落ちたら、どうなるんだろう。
強制的に中つ国に戻ってしまうんだろうか?
――そんなような気がする。
だって、今までのわたしがそうだったんだから。だとしたら、彼はどうすればいいのだろう。
またあの場面を繰り返さなくてはいけないんだろうか。それを今からでもどうにか、回避することってできるものだろうか。
……いや、できるのなら、最初からそうしている。

そこまでを考えて、わたしは壁にぶち当たってしまった。
なんとなくは、その辺を危惧していた。
わたしが今やったみたいに場面を戻したって、対策を練らなければただの無限ループだ。
ずっと物語は「旅の仲間」の終盤に留まり続けることになる。それではどうにもならない。
どうしよう。……どうしよう。
わたしはこれからについて真剣に思い巡らせようとして、

「へっくしゅ」

くしゃみが出た。
そこでようやく気が付いた。寒い。それなりにそこそこ、結構寒い。
時計を見れば、早朝といえる時間だった。
テレビをつけて、音量を小さめに絞る。
いつも見ている朝の情報番組にチャンネルを合わせると、丁度始まったばかりで今日の日付が映し出されている。
三月の暦も半分を過ぎていた。
わたしが最初に中つ国に渡ってから、こちらではほんの十日程しか経っていない。あと数日で卒業式があるけれど、とりあえずそれは今どうでもいい。
とにかく今は、こちらでできることをしよう。
わたしはそう思った。
今は……今はボロミアさんが目覚めるのを、ひとまず待とう。
そう思いながら、わたしは部屋の暖房を入れた。



「う…………」

程よく室内が暖まり始めた頃、声が聞こえた。
わたしはすぐにボロミアさんを覗き込んだ。ピクリと眉が動いたかと思うと、ゆっくりとその目が開く。
碧を宿したきれいな色の目が一度瞬き、焦点が合う。
ほんの僅かな間のあとに、
?」と彼はそう言った。
それなりに眠っていた割には、はっきりとした声色だった。

「ボロミアさん! ……あの、大丈夫ですか? 何処か痛いとか、具合悪いとか。そういうの、ありませんか」
「いや…………」

言いながら、彼は上半身を起こした。
ハッとしたように胸を押さえるけれど、すぐに確かめるように少し身体を動かしてみる。
やがて「大丈夫だ」と言いはしたけれど、わたしは今の仕草に内心(やっぱり)、と思う。
やっぱり、覚えているんだろうか。自分に何があったのかを。
恐る恐る、わたしは訊ねてみようと口を開き掛ける。
けれど、ボロミアさんの方が数拍早かった。

「……私は、どうなったのだ?」
「覚えていないんですか?」
「…………」

とにもかくにもそこを確認しておこうと訊ねれば、彼は記憶を探るように黙り込んだ。
けれど、すぐに頭を振ってしまう。

「河を下って……ボートを岸につけて休んでいたように思う。……ここは」
「わたしの部屋……わたしの世界です。前にも来ましたよね」
「ああ」

少し合点がいったように、室内を見回す。
彼なりに納得した様子で、何度か肯いた。

「そうか。……では夢を通じて、またこちらへと来てしまったのだな」
「そうですね」

わたしも肯き返してみせる。
そうしながらも、わたしは少し迷っていた。
どうも、最後の結末を覚えていないような様子だ。それとも、今思い出せないだけで、後になって思い出すのだろうか。
今になって、この人に何か隠し事をする理由もない。
ボロミアさんが全てを覚えているならば、わたしも全てを伝えてもいい。

けれど、そうでないのなら……無理に真実を伝えるべきではないかもしれない。
少なくとも、今のところは。
わたしはそう思った。
自らの死を告げられたところで、一体何になるだろう。ただ混乱を招くだけなのではないだろうか。


「はい?」
「……中つ国には戻れるのだな?」
「少なくとも今までは、そうでしたね」
「そうだな。……確か、暗くなるまで休むとアラゴルンが」
「言ってましたね」

わたしは肯定した。
実際には休むどころの話ではなかったのだけれど、敢えて言う必要もない。
少しの猶予があるのは確かなので、そのままわたしは続けて言う。

「しばらくは、こちらにいても大丈夫ですよ。時間、ありますから」
「そのようだな」

少し安心したようで、ボロミアさんは表情を和らげた。
そしてその顔の綻ばせ方に、内心わたしはハッとする。
目尻の細まり方だとか、その口角の上がり具合だとか。……時々、この人は不思議と少年のような印象を残す笑い方をする。
久しぶりに見る、彼らしい笑顔だった。
最近は笑ってみせてくれていても、そこかしこに翳りがあった。けれど今は、そんなものは微塵も感じられない。
かつてのボロミアさんに戻っている。……わたしが好きになった人だ。
不覚にも目が潤みそうになって、わたしは慌てて横を向いた。

? どうした」
「いえ。くしゃみが出そうになって」

適当に誤魔化して、改めて彼に向き合う。
訊いたところ、身体の調子も問題ないらしい。そうして今、わたし達には多くはないけれど時間がある。
だとしたら、ボロミアさんは、自分は、これからどうすればいいんだろう。
少し考えた後に、
「あの」、と彼に呼び掛けた。

「ボロミアさん。嫌でなければ……外にお出掛けしませんか?」
「外に?」
「ええ。ほら、前回来たときは、ずっと部屋の中だったでしょう? せっかく時間もあることですし、少しならわたしの世界、ご案内できますよ」
「それもそうだな。……面白そうだ」

本当にそう思っているようで、彼は興味深そうに肯いた。
これからどうすればいいのかなんて、まだ何も分からない。けれど、――この世界のことが少しでも、この人の記憶に残ってくれたら嬉しい。
わたしはそんなことを思いながら口を開く。
「じゃあ、ボロミアさん」、
いつもだったら言わないようなことだったけれど、この時ばかりは恥ずかしげもなく言うことができた。

「わたしと、デートしましょうか」



……ボロミアさんを、物語の外側の世界へと連れ出してしまった。
物珍しそうに辺りを眺めながら歩いているその人を見守りながら、わたしは改めてそう考えていた。
それが悪いことだとは思わない。
寧ろ、ワクワクしている自分がいることも確かだった。
だって、この人と一緒にこちらの世界にいられるのだ。――こんなに最高で素敵なことが、果たして他にあるだろうか?

思ううちにも、ボロミアさんにとって興味関心を引くものは数多くあるらしい。
通り過ぎていく車や自転車を指して「あれは何だ」と訊ねてくる。
説明し終えれば、今度は遠く空を指して「あれは」と驚いている。たまたま飛行機が過ぎ去っていくところだった。
期待を裏切らないというか、子供みたいな素直な反応をしてくれる。
わたしはこっそり(かわいいなあ)と思ってしまい、ついついニヤニヤしてしまう。

「ふふふ」
「む……、笑うな。中つ国にはないものばかりなのだぞ? こそ、ゴンドールでも似た思いをしただろう」
「そうでした」

言いながらも彼を見上げれば、少しばかり恥ずかしそうに眉根を寄せている。
……やっぱり、かわいいな。そう思う。

「ふふふ」

「あ、今のはそういう意味じゃなくて。……こちらの世界の服も、お似合いだなーって思ってニヤニヤしちゃっただけですから」

そう言い募れば、「まったく」、と彼は困ったように苦笑いした。
流石にいつものボロミアさんの服では、外を歩くのもどうかと思う。
寒い時期だから上にコートを羽織るだけでも良かったけれど、せっかくだからと上下、シャツとズボンも準備してあった。
わたしが何度かこちらに戻ってきていた時に、(いつか一緒に外出できる機会があればいいなあ)と思って用意していたものだ。
……といっても、男の人のサイズというのもよく分からない。
大き目のフリーサイズを選ぶという相当ざっくりなチョイスだったにも拘わらず、どうにか一応は落ち着いているみたいだ。

「服、キツくないですか?」
「いや、平気だ」

そういってベルトの位置を確かめている。
靴やベルトは彼のものそのままだけど、こうしてみれば割と違和感もない。
別の世界の人だなんて、きっと他の誰かが見たって気付かないだろう。
――わたしは改めてその人を見た。
ボロミアさんも、思った以上に楽しんでくれているように見える。
歩いて程近くにある大学の敷地内に入ってからは、珍しい施設も多かったと見えてあれこれ訊ねられた。
そうして一通り回り終えた時には、お昼前になっていた。
別の学部や施設をもっと広く案内することもできるけれど、学内だけに時間を費やすのも惜しい気がする。

「どうしましょうか」、
わたしはボロミアさんを見上げて言った。
「少し距離がありますけど、街に出ることもできますよ。行こうと思えば、ちょっと遠出して海を見に行くことだってできますし」
「この世界の海か。……きっと美しいのだろうな」
「まあでも、冬の海は寒いですから。行くなら、暑い時の方がいいかもしれませんね」

そんな受け答えをしながら、(いっそのこと)、と思う。
――いっそのこと、彼を、ボロミアさんを、こちらの世界に閉じ込めてしまおうか。
中つ国に戻らなければ、あの結末を迎えることもない。

「ボロミアさん」
「うん?」
「ボロミアさんが望むなら……何処にだって行けるんですよ」

もし望むのなら、定められた筋書きから何処までだって逃げたっていい。
わたしはその手助けをしよう。ミナス・ティリスで彼がわたしを庇護してくれたように、こちらでは自分が同じことをしよう。
わたしは口の端っこを持ち上げながらその人を見る。
続けた。

「どうしたいですか? 何がしたいとか、何が見たいとか……ありませんか?」

中つ国に戻らない――そんなことができるかどうかなんて、分からない。
そもそも、そうすることを、ボロミアさんは望むだろうか。
一体どうすることが、この人にとって一番いいのだろう。
どうすればここから、ハッピーエンドに持っていけるのだろう。
――わたしがボロミアさんにできることって、それって一体、何だろう?

わたしは目の前の人の返答を待つ。
少し思案した末、彼は
「おまえの住む街を見ておきたい」と言った。



歩けない距離ではなかったけれど、時間が惜しかった。
まだ肌寒いこともあって、バスを使って街へ出る。
(乗車の時はややおっかなびっくりしつつステップを上るボロミアさんに、やっぱりかわいいなと思わざるを得なかった)
三月の街は、近付く春の気配に溢れている。
桜をモチーフにした看板を見つめるボロミアさんの袖を引いて、軽食の取れるお店に入った。
メニューを写真から選び、ゆっくりと食事をする。
会話を交わしながら、この世界の彼なりの感想を聞かせてもらう。
楽しい時間だった。
終わりたくないなあ、と思う。……終わってほしくない。そう思った。

「美味しかったですか?」
「ああ。……皆に話して聞かせたら、悔しがるかもしれんな」
「そうですね、特にホビットの皆とか……じゃあ、内緒にしておきましょうか」

食後の紅茶を飲みながらそんな他愛無い話をした直後、少しの沈黙があった。
ほんの少しのことだった。
すぐに、
」、と呼び掛けられたのだ。

「はい?」
「中つ国に戻ったら」
「はい」
「私は――死ぬのだろうか」

店内に流れる聞き覚えのある流行の音楽、誰かと誰かの話し声、軽いさざめき。
そんな中にふっと零された言葉だった。
すぐには反応できなくて、わたしは真っ直ぐボロミアさんを見返す形になる。
その表情は言葉とは裏腹に、とても穏やかなものだった。
何か畏怖のような、負の類の感情なんて一切ない。けれど……確かにその人は言ったのだ。死ぬのだろうかと。

「…………ボロミアさん」、
わたしが自分を取り戻して彼に応えるまで、そこそこの時間が必要だった。

「覚えてるんですか……?」
「思い出した、というべきだろうか。……目が覚めた時は、記憶がはっきりしなかったがな」
「…………」
。おまえがこうして、時間をくれたのだろう?」

どうやったのかは分からぬが。
そう続けながら、彼は目を細める。
わたしはと言えば、ただただ固まっていた。
ボロミアさんは自分の結末を覚えていて、それを思い出したのだ。
それというのは、いつなのだろう。少なくとも、行動を共にしていたこの何時間かの間のはずだ。
なのに、わたしは全くその様子に気付かなかった。
目の前の人を見つめる。……微笑んでさえいるボロミアさんだけど、その記憶を取り戻した時の衝撃というのは、どれほどのものだっただろう。
そしてこの人は、どうして、こんなふうに静かに笑んでいられるのだろう。

「ボロミアさん、どうして」
「うん?」
「どうしてそんなに、落ち着いていられるんですか」
「どうして…………そうだな」

ふと視線を落として、彼は少しだけ黙り込む。
理由を考えている、というよりは、どう話したものか、という切り口を探しているような印象だった。
実際そうだったみたいで、すぐにボロミアさんは目線をこちらへ戻した。

「思い出した時は……無論、動揺したぞ。今も、それこそ……私は夢を見ているのかと思っている」
「夢では……ないですね」

そりゃあ、夢を通して行ったり来たりはしてますけど。
わたしが応じれば、そうか、と少し安堵するようにその人は笑む。
そして僅かな間の後に、ボロミアさんは唐突にこう言った。

「礼を言う」
「…………?」
「最期にに会えないことが辛いと思っていたが……その機会を、おまえ自身が与えてくれた」

それが嬉しいのだと、彼は言う。

「こうして、心残りのひとつが叶ってしまった。まるで奇跡のようにな」
「…………」
「そうだな……だから、こうして心穏やかでいられるのだろうな」

と、最後に時間を過ごすことができるのだから。
それが、彼の答えだった。
そんなふうに言われて、わたしはどうすればいいのだろう。
わたしはまだ何処かで、この物語をどうにかひっくり返せないかと考えている。
ボロミアさんを助けたいと思っている。……そのはずだった。

けれど、――本当にそうだったろうか?
ふと、そんな疑問がこころの中で顔を覗かせた。
わたしはこの人を助けたいと思う反面、漠然と「物語を変えてはいけない」と思ってはいなかっただろうか?
ロード・オブ・ザ・リングのことを思い出したのは、ほんの少し前でしかない。
けれど無意識の中、物語を変えることを禁忌と捉えていたかもしれない。……それは、きっと否めないのだ。

だって、そうすることでその後の歴史までも変わってしまうかもしれない。
それが物語全体にとって、必ずしも良い方向に向くかどうか、責任を持てない。
そして何より、ボロミアさんの辿った道筋と迎えた結末。
それらを全部ひっくるめて彼なのだ。
人間らしくも最後まで戦い抜いた人だからこそ、わたしはこの人が好きになった。

……ああ。そうか。
今この時になって、わたしは気付いた。
本当にこの人を助けていいのかどうかを躊躇した瞬間が、紛れもなく自分の中にあったのだ。
だからきっと、わたしは全力を以ってボロミアさんを助けられなかった。
原作を変えてしまうには、きっと相応の覚悟と対価が要るのだろう。
わたしには、その覚悟が足りなかった。ただ、それだけのことだった。
だから物語を変えられずに、彼は一度死んだのだ。

「……ボロミアさん」
「うん?」
「ボロミアさんは、どうしたいですか」
「…………?」

口元に笑みを残したまま、彼は微かに首を傾げて見せる。
わたしはそのまま続けて訊ねた。

「例えば……そう、このままこちらに残って、わたしと一緒に暮らすとか!」

少しだけ、語尾を明るくして言ってみる。
決してボロミアさんを試そうだとか、そんなつもりはなかった。
ただ、自分のこれからを知った今、彼はどうしたいのか。その率直なところを訊きたかった。
わたしの覚悟が足りなかったせいで、ボロミアさんを救えなかったのだ。だから、今からでもできることはしたい。
この人が望むなら、このまま二人ともこちらに居られるかどうか試してみようと思う。
強く願えば、もしかしたら、と思う。
何しろ、わたしの夢だ。……夢を閉ざしてしまえばいい。上手くいくかどうかは、別にしても。

「そうするのもきっと……楽しいのだろうな」
「じゃあ」
「だが」

わたしの言葉のすぐ後に繋ぐようにして、彼は言った。

「私がこちらに残るのは、にとって負担だろう」
「どうにでもなりますよ、そんなの」
「それに」

わたしの主は目を閉じて、想いを馳せるように言葉を紡いだ。

「それに……こちらで生きたとしても、私もいつかは死を迎える」
「…………」
「私は……永い眠りにつく時、少しでもあの白い都を近くに感じながら眠りたい」

そうするには、この世界はあまりにも遠すぎるのだ。
彼はそんなふうに言う。
――この人にとって、還りたいと思うのはやっぱりゴンドールなのだ。
わたしは何度か、肯いた。
そう答えることを、なんとなく分かっていたような気がする。
何故って、この人はボロミアさんなのだから。それだけで十分すぎるくらいの理由だとわたしは思った。

「ボロミアさんなら……そう仰るような気がしてました」
「そうか」

ふっと微笑んだ彼は、同時に、少し申し訳なさそうな表情になった。

。おまえには何も残してやれなかったな」
「……またあ。そういうことを仰る」

わたしはわざと茶化すように手を振ってみせる。

「いっぱい頂きましたよ。思い出とか、いろいろたくさん」
「そう言ってくれるのなら……嬉しいな」
「…………。ボロミアさん」
「うん?」
「ボロミアさんは、ちゃんと色々、お話してくれましたね」
「…………?」
「だから、わたしもお話しますね」

何を。
そう言いたげな彼を促して、ひとまず会計を済ませて店を出る。
場所を変えた方が解りやすいと思ったのだ。
少し行ったところに何度か入ったことのある書店があり、ボロミアさんを連れて入った。
ジャンルの配置も大体知っていたので、迷うこともなく辿り着く。
そうして何処だっけと本棚を目で辿っていると、ふとボロミアさんがある一冊を凝視していることに気付いた。
目線を下げれば、平積みの方にそれはあり、帯にフロドの姿があった。
映画化されてそれなりに経つものの、今なお作中のワンシーンが帯に使われているみたいだった。

「ボロミアさんの方が見つけるの、早かったですね」
「……これは何だ?」
「――皆の、物語ですよ」

そう告げて一冊を彼に手渡せば、その人は呆然とその表紙を見つめていた。






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